第29章 vanilla 〜蒼き焔の行方〜 / 伊達政宗
『舞』
その可憐で純白の花が穢されていた時、俺は。
舞へ求婚するための、贈り物を選んでいる最中だった。
「こっちか……やっぱりこれかな」
飾り物屋で、政宗は眉間に皺を寄せながら、懸命に何かを選んでいた。
あっちの櫛を手に取っては唸り、こっちの簪を手に取っては唸り……
すでに一刻近くその様子の政宗に、店主が微笑ましく思って声を掛けた。
「お兄さん、新婚さん?」
「え?」
「可愛い奥さんへの贈り物じゃないのかい」
『可愛い奥さん』と言う響きに、政宗は少しこそばゆくなって、少し頬を染めて後ろ頭をかいた。
「あー……、まだ祝言は挙げてないんだ。 その……今日結婚を申し込むつもりで」
「そっか! じゃあ、ぴったりの物があるよ!」
店主はやたらニコニコしてそう言うと、店の奥へと下がっていき……
やがて、小さな木の小箱を手に帰ってきた。
「これ、どうだい」
そう言って、小箱を開ける。
そこには、まばゆい白金に輝く輪が二つ入っていた。
少し青みがかった白い石が装飾されていて……
その煌びやかな装飾品に、政宗は思わず魅入った。
「なんだ、これ」
「指輪だよ」
「指輪?」
「ここでは馴染みが無いかもしれないけど…西洋では夫婦になる二人が、お互いの薬指にはめる物なんだ」
政宗は『へぇ…』と、大きいほうの輪を手に取る。
煌びやかではあるものの、作りはとても簡素で、石が一粒だけあしらったその指輪に、政宗はとても興味が湧いた。
「この石……金剛石じゃないのか?」
「よく解るね」
「一回見た事がある。 すごい高価なんだよな」
「まぁ、それなりに」
そう言って店主が弾いた算盤を見て、政宗は一瞬めまいがした。
今日使う予定の三倍の金額である。
でも……
『ありがとう、政宗。 嬉しい…っ』
そう嬉しそうに、顔をふにゃっとさせる舞の顔を思うと……
それを見るためなら、金なんて関係ないと思えた。
「解った、これにする」
財布の中身はすっからかんになるが、どうでもいい。
求婚なんて、一世一代の大勝負だから。
舞を死ぬほど満足させてやりたかった。