第3章 第三章
酒は飲んでも飲まれるなということわざがそのまま出ているような雰囲気がある。酔い潰れた刀剣男士がいたり、宴のような賑わいを見せていた。日本号さんに肩を抱かれ大広間へ入って行けば、一瞬にして静まり返ってしまった。やはり私はここにいてはいけないような気がすると日本号さんに目で訴えて見るも、どこ吹く風の如くあれよあれよと座り込んでしまっていた。酒瓶を私に渡して来た日本号さんは酌をしろと不適切に笑う。少し場の空気を良くしてくれた雰囲気を直ぐに感じ取った。
「日本号さん、余り飲み過ぎるのは身体に毒ですよ?」
「ははははっ!毒だなんだと言いつつあんたも注いでくれるじゃねぇか…はぁっ!美女に酌をして貰った美酒は格別美味いな!」
「美女!?えっ…誰の事を?日本号さんやっぱり酒は止めましょう。私を美女だと見えた時点で相当酔っ払ってますから…」
「なに言ってんだ、主以外に誰がいるんだよ?」
それは絶対にない。元審神者の彼女ならまだしも私は至って平凡なモブ顔であり、決して美女だと騒がれる訳がないのである。いや本当に…冗談ではなく日本号さんの趣味が可笑しいのだろうかと考える程に彼の発言に首を傾げてしまう。
「あんたは飛び切り美人だ」
「いや、だから…」
「俺は酔っちゃいねぇよ」
「酔っ払いはその台詞、必ず吐きますからね!」
「あんた自分が思ってるより見た目も悪くねぇさ。ただそれ以上に主の性格は案外悪くはない、嫌いじゃねぇよ…」
ほろ酔いの日本号さんは笑う。なんというかとてもキュンと来た、兄貴肌に弱い私はこのまま彼の厚い胸板に飛び込み泣いてしまいそうになる。そんな時頭を下げたように酒器を持って来たまた違う槍を見た。
「主、私にも宜しいでしょうか」
「蜻蛉切…さん…」
ヒノキで出来た木の酒器が目の前に出される。蜻蛉切さんを見上げれば、少しばかり酔って見えて目が据わっているように見えた。本当に大丈夫だろうかと内心不安に思いながらも酌をする。少し空気が軽くなったように思えた、一気に飲み干した蜻蛉切さんは私を見つめて頭を下げた。
「お初にお目にかかります、蜻蛉切と申します…まだ会ってもいなかった自分の名を覚えていて下さり大変嬉しく思います」
「…いえ、そんな。皆さんには折角名前がありますから覚えただけで…ただ沢山いると忘れてしまうか、間違えてしまいそうで内心ビクビクとしていたりします」
