第27章 小さな太陽と大きな背中
「ヒドイなぁ紡ちゃん、岩ちゃんみたいなこと言わないでよ~」
そんな風に言えば、紡ちゃんがそういえば岩泉先輩は一緒じゃないんですか?なんて聞く。
「岩ちゃんはまだ部活中!って言うか、矢巾との自主練だけどね。で、オレは岩ちゃんに早く帰れと追い出されて帰る途中・・・岩ちゃんが気になる?」
『・・・別にそういう訳じゃないです。ただ、いつもお2人でいるなぁとか、その程度です。じゃ、私はそろそろ帰りますね?及川先輩もお気をつけて』
傍らの松葉杖を掴み、紡ちゃんが立ち上がろうとする。
「帰るって、1人で?」
『そうですけど?』
「いつも1人で帰ってんの?」
『いえ、普段は影山と2人で帰ってますけど・・・今日はちょっと、影山は自主練あるから、たまたま1人です』
ふ~ん・・・いつもは飛雄と2人で帰ってんのか。
・・・飛雄と、2人で、ねぇ。
紡ちゃんの口から飛雄と2人でって言葉が出た事で、オレの体温が一気に下がる気がした。
別に飛雄だけじゃない。
他の誰の名前が出たとしても、多分オレは同じだ。
この場合の安全圏は、紡ちゃんのお兄さんの名前だけ。
「行こうか、送ってくよ」
『大丈夫です。1人で帰れますから』
「そう言わずに、さ?」
ちょっと屈んで、紡ちゃんの手を引き立ち上がらせる。
『及川先輩、私ホントに、』
「ダ~メ!女の子を、しかもケガしてるのに1人では帰せません・・・先輩の言う事ちゃんと聞きなさい?」
『・・・はい』
うん!素直素直!
紡ちゃんは素直だから、こういう時は必殺、先輩の言うこと聞きなさい作戦で。
「よし、お利口さん!じゃ、行こうか」
紡ちゃんのペースに合わせて、ゆっくりと進む。
のんびり歩けば、それだけ一緒にいる時間が増えるし、オレとしては棚からぼた餅くらいのラッキー。
・・・岩ちゃんにお礼を言わなきゃだね。
体育館から閉め出してくれたお陰で、紡ちゃんと2人で歩く時間が出来たんだから。
岩ちゃん?
・・・後悔なんかしても、遅いんだからね。
これは、オレに巡って来た・・・チャンスとも言える。
チャンスは、掴まないとね。
例えすり抜けてしまっても、何度でも掴むよ、オレは。
手に入れたいものは、人任せにしちゃいけない。
自分の手で、糸を手繰り寄せなきゃ・・・ダメだ。