第26章 交差する想い
岩「何言ってんだ。飛べなかった烏は・・・もう、羽ばたき始めてんじゃねぇか」
「・・・え?」
岩「まだまだ雛鳥かも知れない。でも、昨日の練習試合で俺は少し、脅威を感じたよ」
青城のエースと言われる岩泉は、薄く笑いながら、俺にそう言った。
「まだまだ、これからだよ。個性豊かな新入部員と、問題児がいるからね」
岩「それを先頭に立って引っ張って行くのが、主将の仕事だろ。部員はアンタの背中を見て歩くんだからな」
俺の、背中・・・か。
「違うな。俺達は全員が一緒に前に進むんだ。だから、俺が前を歩く事はないよ」
俺がそう言うと、ウチのどーしよーもねぇ主将にも聞かせてやりたいよ、と笑って返す。
岩「そうだ。及川が、アイツにちょっかい出すかも知れねぇが、そん時は容赦なくぶん殴ってくれ」
「そんな事は出来ないよ。ウチにも、スキンシップが激しいのが・・・ひとりいるからね」
密かにスガを思い浮かべて、俺は笑った。
「ま、お互い苦労するな」
岩「確かに・・・とにかく、アイツの事は頼む。泣かせたら、そっちの王様が怒り出すからな」
「・・・そうだな」
それから後は、たわいもない話をして、そのまま別れた。
帰り道、俺達がこんな風に話をしたと知ったら・・・紡がどんな顔をするんだろうか。
驚いて大きな瞬きを繰り返すか。
何してるんだと笑うか。
それとも・・・
いや、それはダメだろ。
約束したからな。
それに俺も、紡には笑っていて欲しいからな。
そんな事を考えながら、ゆっくりとした足取りで家路へ向かった。