第26章 交差する想い
「うるさい。早く出て」
背中を押すように手のひらを当て、ドアの向こうへと促す。
母「ちょっと蛍、押さないでよ。あ、そうだ!・・・もしも~し!電話の向こう側の彼女さん!」
『えっ?!あ、はい!』
突然の母さんの呼びかけに、ポチが元気よく返事をした。
「なんで返事してるんだよ」
『あ・・・なんか反射的に・・・』
母「今度遊びにいらっしゃいね!じゃ、蛍?ごゆっくり~」
「ちょっと!」
それだけ言って、意味深な笑顔を残しその場を去って行った。
・・・ハァ。
「あのさ、ポチはいつから僕の彼女になったワケ?」
大きなため息を混ぜながらポチに言った。
『お、お母さんの勢いに押されてしまって』
確かに、あのおかしなテンションで言われたら仕方ないか。
『あの、ごめんね月島君。今度、月島君のお母さんに私が直接ちゃんと違うって謝るから』
「直接?ポチ、うちに来るって事?」
『あっ・・・そ、そうだよね、余計ややこしくなっちゃうよね』
「・・・来れば?」
『えっ?!でも・・・』
「山口なんか、しょっちゅう来てるし」
「普通に友達として来れば良いんじゃない?」
多分、ホントに来たら母さんビックリするだろうケド?
『あ、じゃあ・・・機会があったら・・・お邪魔します・・・』
「そのうちね」
僕がそう言うと、ポチは少し嬉しそうに、うん!、と返してくる。
この間は、あんな風にモメたのに。
ポチはいつの間にかスルッと心に入り込んでくる。
でも・・・別に嫌だと感じない。
「変なやつ・・・」
『えっ?』
「何でもない。それより、また母さんが来る前に・・・」
そろそろ切るよ?
だったそれだけの言葉が、出ない。
そして、ポチと話している事が楽しいと思ってる自分にも驚く。
やっぱり・・・変なやつ・・・
『月島君のお母さん、夕飯を呼びに来たんだよね?ごめんね長電話しちゃって。話し相手になってくれて、ありがとう』
「あぁ、それは別に。あと、言い忘れてたけど、レモン水・・・」
『レモン水?』
「ありがとう、城戸サン?」
『別にいいの、に?えっ??城戸さんって言った?!』
「じゃあね」
『え?あ!月島君?!・・・えーっ?!』
混乱するポチを想像して密かに笑いながら、僕は静かに電話を切った。