第26章 交差する想い
背後から呼び止められ振り返ると、一瞬分からなかったけど、そこには城戸さんのお兄さんがいた。
「こんにちは、ちょうど良かった・・・」
桜「先生?」
「あぁ、いえ。昨日の事もありますし、ちょっと様子を見に・・・あと、澤村君達からも預かり物をしていまして」
持っていた巾着袋を掲げて見せると、穏やかに微笑まれた。
桜「俺もちょうど病棟に戻る所なんです。紡の所まで、ご案内します」
「それは僕も助かります。では、お願いします」
たわいもない会話をしながら、隣を歩く。
時折すれ違う小さな入院患者さんに手を振られながら、城戸さんのお兄さんも微笑みながらそれに答えていた。
チラリ、と、隣の姿を見て。
その出で立ちに見とれてしまう。
「僕にも、もう少し身長があったら・・・」
桜「急にどうしたんですか?」
立ち止まり、僕の呟いた事に首を傾げる姿は、やはり兄妹であるからか、城戸さんとよく似ていた。
「あはは・・・ただのボヤキですよ。僕は男の中でも身長が高い方ではないので、背が高くて羨ましいなぁ・・・と」
桜「高いのは高いなりに、いろいろ大変何ですよ?一般的なドアの高さとか、気を使いますから。そう言えば烏野にもいますよね?背が高い1年生。彼も俺と同じ経験、あるんじゃないかな?」
「あぁ、月島君ですね!確かにそう言われると、そうかも知れないって思えて来ますが・・・でもやっぱり、憧れますよ?背が高いがゆえの悩みって物に。僕は・・・何も取得がありませんから」
言いながら、悲観的な自分はダメだと思う。
僕は教師で、もしかしたら同じように悩む生徒に相談されたら・・・なんて答えるんだろう。
これでは、僕も同じですから・・・としか、言えない。
桜「武田先生?年下の・・・若輩者の独り言だと思って聞いて下さいね?」
「えっ・・・と、はい?」
足を止めたまま、壁際により話を聞く体制を整える。
桜「俺は、武田先生はそのままの武田先生でいいと思います。教師でありながら自然体で、生徒により近くにいて、同じ目線で話をして物を見る事が出来る。それは、武田先生の人柄というか、個性なのでは?と思います」
「そう・・・でしょうか」
桜「えぇ、少なくとも俺はそう思います」
僕の、個性・・・
そんな事を人から言われた事がなかったから、じんわりと胸の奥が暖かくなる。
