第26章 交差する想い
国「紡・・・」
私を抱きとめたままの国見ちゃんが、名前を呼んだ。
まだ落ち損ねた事に対して言い足りないことがあるのかな?
そんな事を思いながら、顔を上げて国見ちゃんを見た。
・・・何だろう、この違和感。
ちょっと前とは違う国見ちゃんの表情に、私は戸惑いを隠せない。
国「俺と、キス・・・してみる?」
?!
言われた事に体が硬直する。
今・・・なんて言ったの?
『よ、よく・・・聞こえなかった気が・・・?』
動揺を押さえ込みながら、聞き間違いだったかも知れないと、ポツリと言ってみる。
国「だから、俺とキス・・・してみる?って言ったんだよ・・・」
・・・聞き間違いじゃなかった!!
硬直した体を何とか動かし、国見ちゃんの腕の中から出ようと胸を押し返してみる。
国「逃げんなよ・・・」
そう言って国見ちゃんは、更に腕を縮こませ私を閉じ込めた。
何で、急にそんな事を?
どうして?
さっきから散々ブスとか言ってたじゃない。
グルグルと頭の中を疑問が浮かんでは消えて行く。
『冗談言って面白がってる?とか?だよね?』
途切れ途切れな言い方で、それでも少しずつ体を離そうと身じろぎする。
国「超絶ホンキ」
『な、なんで?!だって、私なんて国見ちゃんの好きなタイプじゃないし、カワイイとか思ってないでしょ!!』
国「そんなこと俺、ひと言も言ってないけど」
『じゃあ何で?!』
いつになく真剣な表情で。
普段は飄々としてて、何かと面倒臭そうにしてるのに。
『なん・・・で・・・』
国「お前の中で、いつまでも岩泉さんが・・・消えないから、だよ」
『それは思い出なんだから別にいいじゃ、』
国「思い出になんかなってないだろ。だから紡は何かあればそんな顔してるんだろ」
国見ちゃんが言うことは、半分は正解なのかも知れない。
もう忘れよう。
終わった事なんだから。
大丈夫だから。
岩泉先輩の決めた事を応援していこう。
自分にそんな言い訳をして、結局・・・何も変わってない私がいる。
だからさっきも、あんな風に・・・岩泉先輩と・・・
国「自覚、あるだろ?」
国見ちゃんに言われて、私は小さく頷いた。
はぁ・・・と大きく息を吐くのを感じて、そっと国見ちゃんを見る。
『私、ダメダメな自分から・・・卒業出来てないんだね・・・』