第26章 交差する想い
よし、これで大丈夫。
まるで大きな大会の試合前みたいなドキドキ感だけを残し、俺はエレベーターを降りた。
ナースセンターで面会受付をして、静かに廊下を歩く。
・・・って、ここ?!
個室じゃね?!
てっきり大部屋かと思ってたから、ある意味ビックリだよ。
ひとつ息を吐いて、ドアをノックしてみる。
あれ、返事ない?
もう1度、今度はさっきより少し強めにノックすると、小さく返事が聞こえた気がした。
ドアを開けて覗いて見ると、ベッドの脇に寄りかかった紡が見えた。
「いるんなら返事しろよな」
そう声を掛けながら中に入ると、紡は俺を見て驚いていた。
『国見ちゃん?!どうして?』
「どうして?じゃないっつーの!今から行くから部屋番号教えろってLINEしただろ。返事来なかったけど。電話もしたのに話し中だし」
そう返しながら近付くと、紡は慌てて目を擦り顔を逸らした。
・・・泣いてた、とか?
「とりあえず、ほら、中身がどうにかなる前に先に渡しとく」
今の顔は見なかった事にして、ケーキ屋の箱を紡の手に持たせてやる。
『私に?』
「紡に渡したんだから当たり前だろ。他に誰がいるんだよ?いらないなら俺が食う」
視線と手振りだけで箱を開けてみろと伝えると、紡はケーキ屋の箱を開けて歓声をあげた。
『イチゴがいっぱい・・・国見ちゃんありがとう!』
「そこは国見ちゃん大好き!とかいってくんない?そしたらまた買ってきてやる」
そっぽを向きながら言うと、紡は既に部屋に設置の冷蔵庫に向けて足を引き摺りながら歩いていた。
今の所ちゃんと聞いとけよっ!!
冷蔵庫を閉めて振り返る紡に、俺はスタスタと近付き、その体を持ち上げた。
『わっ、ちょっと国見ちゃん?!』
「足痛めてるケガ人が不用意に歩き回るなよ。治りが遅くなるだろ」
『でも、あの、さ?お姫様抱っこはさすがに恥ずかしい・・・』
目を泳がせて言う紡に、思わず吹き出す。
「お姫様抱っことか、その顔で言うなよブース!」
『あーっ!いま国見ちゃん、ブスって言ったでしょ!!もう、下ろしてよ!!絶対に国見ちゃん大好きとか言ってあげないからね!』
・・・さっきの聞こえてたんじゃないか!!
こいつ、軽くスルーしてたのか。
「うるさい、落とされたくなかったら捕まっとけ」