第26章 交差する想い
岩「国見?お前こんな所で何してんだ?」
やっぱりバレるか・・・
「友達の所へ用事があって、手ぶらじゃアレなんで・・・」
そう言って買ってきたケーキの箱を掲げて見せた。
岩「なるほど。それで及川の誘いを?」
「まぁ・・・そうッス。部活ないなら今日しか多分時間ないと思うんで」
それは本当。
たまたま今日が部活ないだけで、明日からはガッツリあるだろうから、紡に会うとしたら今日しかない。
会う・・・と言えば、少し語弊がある。
でもアイツが落として行った髪留めを届けるんだから、会うのも同じだ。
岩「ま、とりあえず、だ。この辺うろついてると及川達に見つかるぞ。なんせ俺は及川に呼び出し食らって向かってるところだからな」
「マジっすか?」
用事があって先に帰った岩泉さんを電話で呼び出したとか、さすが面倒臭い大王・・・
岩「今、お前に会った事は黙っててやるから、早く立ち去った方がいい。じゃあな」
そう言って岩泉さんは足早に歩いて行ってしまった。
コレって一応、借り・・・になるのか?
何かの時に言われたらヤバイよな。
俺の行き先は言ってないんだし、誤魔化す事はいくらでも出来るけど。
岩泉さんの後ろ姿を見ながら、ため息をついて、俺は病院へと歩き出した。
歩きながら、ふと思う。
岩泉さん、こっちの方から歩いて来たよな?
この先にあるのは、紡のいる病院・・・
まさか、な?
俺が知らないだけで、どっかそこら辺の路地から出て来たっていう可能性もあるし。
いや・・・でも昨日の慌てぶりからしたら、そっちの可能性だってあるかもだろ?
アイツが倒れた瞬間、俺と被るように岩泉さんは紡の名前を叫んだ。
普段どれだけ平静を装っていても、人間誰しも咄嗟の時は・・・どういう行動を取るかなんて分からない。
って事は?
岩泉さん、もしかして今でも紡の事が・・・
それでもし、紡も岩泉さんの事が・・・
考えて行く度に、モヤモヤと心の奥から黒い何かが顔を出そうとする。
何をそんなに焦ってるんだ、俺は。
例え2人が過去にどういう関係だとしても、今は何もないだろ。
未だ返信が無いスマホを握りしめ、病院の受付で紡の部屋を聞く。
なるべく落ち着いて。
出来るだけ、冷静に。
エレベーターを待つ間に、こっそり深呼吸して気持ちを落ち着かせる。