第26章 交差する想い
そうだ、及川のしつこい誘いを振り切ってコッチ来たんだった。
「あぁ?うるせぇよ、オマエには関係ないだろ」
及 “ もぅ~、岩ちゃん冷た~い!そんなに冷たくされたら、オレ寂しん病で死んじゃうかもよ~? ”
「は?・・・知るか!そのまま死んどけよ!!」
そんなワケ分かんねぇ新しい病気開発すんなよ!
及 “ 岩ちゃんヒードーイー!! ねぇねぇ?用事終わってんならさ、今からコッチ来てよ!いつもの店にマッキーとまっつんと金田一いるからさぁ!国見ちゃんには・・・逃げられたけどっ!! ね、来る?来るでしょ?岩ちゃん来てよー! ”
・・・及川のしつこさは半端ねぇっつう事、忘れてたぜ。
「あぁ、もぅウルセェってんだよ!わかった!!行けばいいんだろ?!じゃあな!」
言うだけ言って、そのまま通話を切った。
「紡・・・悪ぃ、及川から呼び出しだ」
脱力感を抱えながら大きく息を吐き、紡の側へと戻る。
『大事な用事かも知れないので、行ってあげて下さい・・・私なら、大丈夫ですから』
お前はまた、大丈夫だと言うんだな・・・
「どうせアイツの事だ。大した用事じゃねぇよ。それに、お前の大丈夫ってのは、ホントはそうじゃねぇって事も、お見通しだ」
あの日も、大丈夫だと笑っている紡を・・・置いて行った。
また、俺は・・・
『私は・・・まだまだって事ですかね?』
俺に気を使っているのか、紡はおどけて見せながら・・・笑っている。
「・・・そうかもな?」
俺も胸の内を悟られないように、笑って返す。
「紡・・・さっきは、悪かったな・・・忘れてくれ・・・」
俺は・・・忘れないでいるから・・・
そんな思いを込めて、紡の顔を見続けた。
紡の姿を、新しく塗り替える様に。
『・・・ハジメ先輩がそう言うなら、そうします・・・でも、じゃあどうしてそんな・・・・・・何でもありません』
いま・・・何を言おうとしたんだ・・・?
聞き返そうとすれば出来るのに、それを聞くのが俺は少し怖くて・・・聞けないでいた。
「本当に、悪かったな・・・だけど、あの瞬間は・・・あの一瞬はウソじゃない、から・・・じゃ、行くわ」
足元に置いていた鞄を肩に掛け、紡に背中を向ける。
また、置いて行ってしまうのか・・・
そう思うと、1歩を踏み出す勇気が出ない。