第26章 交差する想い
嘘でも何でもいい・・・
今だけ俺に・・・これが本当だと、勘違いさせてくれ・・・
「俺はズルイんだ。だから何度も泣かせて、何度も傷付くと分かっていて、俺が自分で突き放したのに・・・」
『・・・ハジメ先輩、ズルイのは・・・私も同じかも知れません・・・』
紡はそう言って、恐る恐る俺の背中に腕を回して体を寄せた。
突然の事に、思わず体がピクリと震えてしまう。
それが伝わったのか、紡は伸ばした腕を緩め、体を引いた。
『今のは、なしで・・・ごめん、なさ、』
紡が言い終わる前に、俺は小さな肩を引き寄せ腕の中に閉じ込めた。
こんなにも、心が揺さぶられるのは・・・
紡。
後にも先にも・・・お前だけだ・・・
「謝らなくていい。悪いのは、全部・・・俺の方だ」
『そ、んな事、ない・・・』
顔を上げた紡の瞳に、俺が映っているのが見える。
ドクンと大きな音を立てながら、鼓動が急加速して行く。
ダメだ・・・
もう・・・お前しか見えねぇよ・・・
「紡・・・」
『・・・はい』
「イヤ、だったら・・・」
腕を解き、紡の頬に手を当てる。
『ハジメ先輩・・・?』
「嫌なら・・・殴っていいから・・・」
ゆっくりと距離が縮め、瞬きを繰り返す紡の目元を指先でなぞる。
「目・・・瞑っとけ・・・」
そう告げると、紡は1度大きく瞳を揺らしてから、そっと目を閉じた。
誰かに恨まれてもいい。
この一瞬だけ、俺だけの紡にさせてくれ・・・
ゆっくりと抱き寄せながら、俺自身も目を閉じて行く。
あと、少しで・・・
そう、気が緩んだ時・・・まるで警鐘のように着信音が鳴り響き、肩が跳ねた。
俺は・・・何を・・・
ポケットの中で暴れているスマホを取り出し、着信の相手を確認する。
及川?
「・・・切り忘れてたのか」
着信の相手を見て、思わず眉を寄せた。
「悪ぃ・・・ちょっと」
『え、あ、はい、どうぞ』
部屋の端まで行き、着信を受けた。
及 “ あ!やっと出た!岩ちゃーん!”
いつもと変わらねぇ及川のテンションに、俺は大きくため息をついた。
「・・・なんの用だ」
及 “ ねぇねぇ!今さ、マッキー達と一緒にいるんだけどさ?あ、そうだ、岩ちゃんの用事って、もう終わった?! ”