第26章 交差する想い
『岩泉先輩の言う、いつも近くにいるっていう定義に当てはまるか分からないですけど・・・でも、それだと大地さんやスガさんや、あと、他にも・・・』
大地?ってのは確か昨日、紡が主将の事を呼んでいた名前だよな?
じゃあ、スガ?って誰だ?
俺の表情を読み取ったのか、紡がバレー部の3年生ですよ、と、付け足した。
あぁ、あの3年のセッターの事か。
入学して間もないってのに、名前で呼び合う程の間柄ってワケか・・・
それに、いつも主将が近くにいるって言うのは。
やっぱり・・・そういう事、だよな・・・?
「紡・・・」
『え・・・』
名前を呼んだ事に、紡が瞬きを繰り返す。
「ひとつだけ、俺のわがままを・・・言ってもいいか?」
『わがまま・・・って?』
「また、前みたいに・・・呼んでくれないか?」
もし・・・
『・・・・・・・・・それは、あの・・・』
紡が嫌じゃなければ・・・
「苗字じゃなく・・・名前で」
元には戻れないなら、せめて今より1歩前に進ませてくれ。
『私も、わがままを言っても・・・いいですか?』
「あぁ・・・」
紡がパンダのカップを持ち上げ、ニコリと笑う。
『これを売っているお店に、一緒に行きたいです・・・ハジメ先輩・・・』
あの店で買った事、何で分かったんだ?!
・・・って、紙袋見りゃバレバレじゃねぇか!
「・・・わかった。今度こそ、その約束は果たしてやる」
『よかった・・・』
紡は小さく呟き、カップをベッドサイドのテーブルに乗せる。
あの頃は、男が入れる店か!って言って。
紡に何度頼まれようと、そのうちなって、店には入らなかった。
今度は口約束なんかじゃねぇ・・・お前となら、一緒に行ってやる。
「紡・・・もう1回、呼んでくれ」
『お望みなら、何度だって呼びますよ?ハジメ先輩?』
何度でも、何回でも・・・呼んでくれ。
「もう1回・・・」
『ハジメ先輩・・・しつこいって言われても、何度でも呼びますよ?』
呼ばれる度に、心が甘く痺れて行く・・・
「あぁ、それでいい・・・」
痺れる体を、心を・・・伸ばされた腕に託し、紡を抱き寄せた。
また、懐かしさを感じる甘い匂いに包まれる。
『ハジメ先輩・・・こんな時に、こういうの・・・ズルイ・・・』
その声に・・・俺はまた、縛られて行く。