第26章 交差する想い
それでも紡、お前は責めたり・・・しないんだな・・・
「昨日お前の姿を見た時、俺は一瞬・・・ハッとしたんだ。俺の中では、あの日のままのお前しか残ってなかったからな」
長い黒髪を風に遊ばせながら、あどけなさの残る笑顔でいつも笑っている・・・お前の姿。
あの日見た紡も、最後の最後まで・・・笑っていたよな・・・
ふわりとする紡の髪を指で掬っては、何度もそのまま梳いてみる。
『髪を切ったのは、失恋とかじゃないですよ?イジイジ、クヨクヨしてた自分に決別したかったから。バレーから離れて、いろんな事をしたくて。だから、その為のイメチェンです。周りから運動なんかした事ない人って、思われたくて、バッサリやりました』
「でも、結果的にはバレーに関わってんじゃねぇか?」
『そう言われると・・・ですね』
イタズラに笑い合いながら、言葉を交わす。
知らない間に、キレイになったと心が揺れる。
ー 岩ちゃん?女の子がキレイに変身するのは、恋の魔法をかけられるからなんだよ?いいよなぁ・・・岩ちゃんは。これからずっと、どんどんキレイになって行く紡ちゃんと、一緒にいられるんだからさ? ー
いつだったか、及川が言っていた言葉を思い出す。
あの頃は、また及川がアホな事を言ってる・・・って聞き流していたが。
今の紡を見ていると、及川の言いたかった事が胸に染みる。
お前は・・・誰の魔法で、こんなに変わったんだよ・・・
「実は、よ。今日、影山と話してる時に言われたんだよ。俺の知らない所で城戸は一生分くらい泣いたから、もう泣かすなってな。自分は城戸が泣くのを見たくないって言われて、そんなの俺だって見たくねぇよと思ったけど、それと同時に、それだけ泣かせたのは俺自身なんだとも、思い知った」
影山が?と紡が返し、俺は頷いた。
「それを言われた時に思ったよ。俺が知らないお前を、影山はたくさん知ってるんだなとも思った」
『それはたまたまです。影山とはクラスも同じだし、訳あって放課後とかも一緒にいる事が多かったし』
影山、紡と同じクラスだったのか。
なら、尚更いつも紡と一緒の時間を過ごしてんのか・・・
「ま、俺が思うに・・・それだけじゃねぇとは、思うケドな?いつも近くにいるって事は、そういう事だ」
ため息かひとつ、零れた。