第26章 交差する想い
岩「ま、俺が思うに・・・それだけじゃねぇとは、思うケドな?いつも近くにいるって事は、そういう事だ」
言ってる意味が、よくわからない。
『岩泉先輩の言う、いつも近くにいるっていう定義に当てはまるか分からないですけど・・・でも、それだと大地さんやスガさんや、あと、他にも・・・』
朝練から一緒だったり、菅原先輩はお昼一緒に食べてた事もあったし。
そういうのを含めたら、誰かしらと一緒にいる事が多いとは思う。
岩「紡・・・」
『え・・・』
また、名前で・・・
岩「ひとつだけ、俺のわがままを・・・言ってもいいか?」
『わがまま・・・って?』
岩「また、前みたいに・・・呼んでくれないか?」
『・・・・・・・・・それは、あの・・・』
岩「苗字じゃなく・・・名前で」
それは・・・現実では何度も自分の中で封印しようとして来た呼び方で。
夢の中でだけは、呼び続けていた・・・呼び方で。
もう・・・呼ぶ事はないんだって、昨日も思っていた、呼び方で。
それを今、呼んで欲しいと言われている。
『私も、わがままを言っても・・・いいですか?』
岩「あぁ・・・」
パンダのカップを持ち上げ、ニコリと笑う。
『これを売っているお店に、一緒に行きたいです・・・ハジメ先輩・・・』
岩「・・・わかった。今度こそ、その約束は果たしてやる」
『よかった・・・』
小さく呟き、カップをベッドサイドのテーブルに乗せる。
あの頃、何度お願いしても一緒に行けなかった。
ほんの気まぐれの口約束だとしても、今はそれが嬉しくて、胸が熱くなる。
岩「紡・・・もう1回、呼んでくれ」
『お望みなら、何度だって呼びますよ?ハジメ先輩?』
岩「もう1回・・・」
『ハジメ先輩・・・しつこいって言われても、何度でも呼びますよ?』
岩「あぁ、それでいい・・・」
伸ばされた腕にそのまま引き寄せられ、また、懐かしい匂いに包まれる。
『ハジメ先輩・・・こんな時に、こういうの・・・ズルイ・・・』
こんな風に優しくされたら。
勘違い、しちゃうよ・・・
そう思っていても、それが心地よくて離れたくないと思ってしまう自分も・・・ズルイんだと思う。
岩「俺はズルイんだ。だから何度も泣かせて、何度も傷付くと分かっていて、俺が自分で突き放したのに・・・」