第26章 交差する想い
岩「昨日、烏野との練習試合が終わってからの練習中、お前から目が離せなかった。ケガしてるってのに、片付けをしようとしたり、動き回るから。何やってんだと、胸の内では説教モードだったんだよ」
『練習に集中出来ないとか、先輩らしくない』
岩「そうだな。だから、見ないようにしてたのに、つい・・・見ちまったんだ」
『何を・・・ですか?』
私がそう返すと、岩泉先輩は何度か小さく息をついては私の頭を撫でていた。
岩「お前が・・・烏野の1年と向かい合って、お互いに、その・・・見つめあったり、とか。頬を撫で合ったり、とか。それを見た時に、俺は・・・矢巾から上げられたトスを打ち損ねそうになって、力ずくで打ち込んだ。その結果が、昨日のアレだ」
烏野の1年と・・・って。
あの時の状況から言えば、それは山口君の事を言ってるんだと分かる。
『山口君は・・・少し私と似てるところがあって。ホントは出来るのに、ちょいちょい後ろ向きになって立ち止まって・・・そんな姿を何となく見ていられない事が多くて。背中を押す、って訳じゃないですけど、何度か話をした事があったんです』
そっか・・・と、ため息混じりに岩泉先輩が相槌を打った。
岩「その後も、お前が倒れていくまでを一部始終目の当たりにして、俺は心臓が止まるかと思った。みんなが駆けつけて説得する中で、泣きながらもお前を離したくないと叫ぶアイツを見て、何度も胸を撃ち抜かれる思いもした。俺に、そんな真っ直ぐな事が言えたら・・・変な覚悟をしなければ・・・今、そうやって叫んでいるのは、俺だったかも知れないのに・・・ってな。正直なところ、妬けたよ・・・」
そんな風に、思っていた事を・・・どうして今、私に話してくれるんだろう。
そう思っても、言葉には出来なかった。
岩「意識が戻ったあと、お前の話を聞いていて。あんな時に夢に見るほど・・・お前をどれだけ傷つけたのか思い知らされて、いたたまれなくなって、その場から逃げる様に外へ出た」
『私は・・・確かに最後の日は置いてかれた事が悲しくて、辛くて、実際たくさん泣きました。後悔もたくさんしました。一緒に走り続けたいって、ワガママのひとつさえ言えなかったんだろう、とか。でも、恨んだりとかしてません。岩泉先輩はそれだけの覚悟を決めて、そういう決断をしたんだから・・・だから、そのまま・・・』
