第26章 交差する想い
もし、それを告げてしまったら。
今のこの時間が、崩れてしまいそうだったから・・・
そんな思いを隠し、また、マグカップへと視線を落とす。
パンダが好きな事、覚えていてくれたんだ。
それだけでも、私には充分過ぎるくらいなのに。
きっかけはどうであれ、ここに足を・・・
あれ?
そう言えば、どうして私が入院継続になったのを、岩泉先輩が知ってるの?
『ひとつ、質問していいですか?』
岩「何だ?」
『私が入院継続した事、誰から聞いたんですか?』
岩「・・・・・・・・・影山から」
影山?
さっき電話ではそんな事何も言ってなかったのに。
言い忘れた?
でもあの内容からして、言い忘れたとかいう会話じゃ・・・
岩「昨日・・・俺が影山に電話して、診察の結果が分かったら知らせてくれって頼んだ。それで影山から昼くらいにLINE来て、ビックリしてまた電話したんだよ」
『そうだったんですか・・・』
岩「紡・・・」
『はいっ!』
急に名前を呼ばれ、思わず大きな返事をする。
岩「出席取ってんじゃねぇんだから・・・」
『ちょっとビックリしちゃって』
さっきまで、お前、とか呼んでたから・・・
岩「紡、ごめんな。こんな事になるほど、痛い思いさせちまって」
『別にこれは私の不注意だったし、岩泉先輩のせいだとか思ってませんから。それに頭の方は大きなタンコブひとつで済んでるし?』
笑いながら頭に手をやると、私の手に、岩泉先輩の手が重なる。
岩「いや、俺が打ち分ける判断を見誤った。だから、金田一が取り損ねて・・・あんな事に」
距離が・・・近い・・・
岩泉先輩がベッドに腰掛け、そのまま私の頭を抱え込んだ。
前と変わらない匂いに、少しずつ胸の音が早くなって行く。
押し返そうと思えば出来るのに・・・
抱き寄せられた腕の心地良さから、それをしようとしない私は・・・きっとズルイんだと思う。
もう、戻れないって分かってるから。
だから今は、ズルイままでもいい・・・
きっとこんなに近くにいられるのは、これが最後なんだ。
そう思えば思うほど、心が離れられなくなる。
岩「紡、1度しか言わねぇ。だから、言い訳を聞いてくれ」
『言い訳・・・?』
岩「あぁ・・・聞いてくれるか?」
態勢が変わらないまま、私は頷いてみせた。