第26章 交差する想い
「俺に・・・その資格はないんです・・・」
桜「それはどうして?」
「俺は・・・」
紡をたくさん泣かせたから。
そう言おうとした時、紡の兄貴の電話が鳴った。
桜「はい、城戸です・・・分かりました、すぐ行きます」
通話をを切って、タイムリミットか・・・と呟くのが聞こえた。
桜「岩泉君、俺はもう行かなきゃいけない。でも、今日少しでも話が出来て良かったと思ってるよ。もし、君が嫌じゃなければだけど、今度ウチへおいで?その時は、揚出し豆腐作るから一緒に食べよう」
揚出し豆腐?!
「どうして俺の・・・」
桜「どうしてかな?それは内緒。あ、内緒ついでにもうひとつ。紡が昨日言ってたんだ。前と変わらずカッコよかったって。こんなカッコいい人と同じ時間を過ごせて良かったって。だから君は、自分が決めた事を掴み取るまで頑張らないといけないね?」
ポンッと肩を叩かれ、鼻の奥が痛くなるのを自覚する。
ー 城戸先生!お願いします! ー
桜「道に迷ったら、俺で良ければ話は聞くから。じゃ、行くね」
そう言い残して、紡の兄貴は早足で離れた病室へと向かって行った。
同じ時間を過ごせて良かった・・・か。
紡・・・それは俺も同じだ。
それから。
この先の未来は誰にも分からない。
俺はその言葉に背中を押された気がした。
過去を変えることは出来ない。
・・・ケド、未来を変えることは出来る。
そして、それが出来るのは他の誰でもない・・・
俺・・・なんだ。
よしっ!と気合を入れ、紡の部屋に向かい歩き出す。
個室?
だよな、ネームプレートが1個しかねぇし。
あ、そういや何で小児科なのか聞いときゃ良かったな。
薄く笑いながら、ノックをする為に手を上げる。
『影山のバカ!!!』
・・・・・・・・・っと。
出鼻を挫く様な叫び声が聞こえ、一瞬ノックするのを躊躇う。
なんだ今のは。
それでも折角ここまで来たんだからと思い直し、控えめにドアをノックした。
『どうぞ!!』
お世辞にも穏やかとは言えない返事が聞こえ、小さな笑いを漏らした。
影山、お前はいったい紡に何を言ったんだよ?
ま、それも含めて話し相手くらいにはなってやるか。
いま俺が出来る事のひとつに希望を見ながら、俺は静かにドアを開けた。