第26章 交差する想い
下を向けていた顔を上げると、そこに見えたのは壁に手を付き、口元を押さえながら肩を震わせている紡の兄貴の姿・・・
「あの!何かスミマセンでした。俺、勝手に勝手なイメージ膨らませちゃって」
桜「いや、そこはいいんだけどね・・・何か、もう・・・ダメだ・・・あはははははっ」
笑いを堪えきれなくなったらしく、スラリと高い背を屈めて笑い出した。
・・・まずったな。
俺、何しにここへ来たんだか分からなくなってきた。
いや、そうじゃねぇよな。
まずはこの場をどう取り繕えばいいんだ?
桜「あぁ、久々にこんなに笑ったよ」
ひとしきり笑って、目を擦りながら俺の方に向き直す。
桜「君は俺の弟に、タイプが似てるよ」
「弟・・・ですか?」
俺がそう返すと、紡の兄貴はそうだと返してくる。
桜「紡から聞いてない?俺に双子の弟がいる事」
「それは・・・聞いてます」
というか、紡と一緒に歩いている所を1度だけ見た事がある。
でも、向こうはスゲェ大人の空気を醸し出していて、見た目ちょっとワイルド系のシャレたセンスの・・・ロン毛の・・・
その人と俺が、似てる?
「似て・・・ますか?」
自分で導き出せない解答を手繰り寄せるように、ポツリと呟いた。
桜「似てるよ。もう、そっくりだよ。正義感が強くて真っ直ぐな所とか」
「でも俺は、」
桜「待った・・・俺は紡と君の間に何があったのか?なんて、聞こうとは思ってないよ。ただ言いたいのは、これまで歩んだ道も、これから先の道も紡が選んだ道だ。そして少なからず、その中に岩泉君、君は存在している」
これから・・・先も?
桜「人との出会いはね、分岐の道を違えたら終わりって訳じゃないんだ。それは紡も君も同じ。拗れてしまった事は、時間が解決してくれるから。それに俺は、紡が今まで誰を選んでも、これから先の未来で誰を選んでも、それは紡の歩いて行く道だから文句はない」
「なんか・・・スケールのデカい話、ですね」
桜「そうかもね。でも、それが俺の気持ち。未来は誰にも分からないからね。もしかしたら、紡が選ぶ未来に君がいるかも知れないし、君が知ってる人の誰かがいるのかも知れない。だけどね、それを選ぶのは紡自身なんだよ」
俺の・・・知っている人の誰か。
その言葉を聞いて、頭に烏野の主将が浮かぶ。
紡の歩く隣に、アイツがいるんだろうか・・・
