第26章 交差する想い
~岩泉side~
急ぎの用があると言ってどっかで駄弁ろうと誘って来た及川達を振り切り、出来る限りの全力ダッシュでここまで来たのは・・・いいケドよ。
最初の1歩っつうのが、出せねぇ。
そのうち一緒に入ってやるからと約束して、そのまま来る事が出来なかった紡のお気に入りの雑貨屋。
1万歩くらい譲っても、男子高校生が1人で立ち寄るには・・・ある意味、打倒白鳥沢より、遥かに壁が高ぇ。
やっぱ違う店に・・・
いや。
そういうワケには行かねぇ。
男子たるもの、1度腹を決めたら行くしかねぇ!
気合いを入れて、未知なる世界へと足を踏み入れた。
買うものは決めてある。
店に入ってしまえば、後は目的の物を置いてある場所を探すだけだ。
・・・が、キラキラふわふわした店内は俺1人でうろつくには居心地が悪ぃ。
落ち着かない気持ちを押さえ込みながら、ようやく売り場へと辿り着いた。
並べてある物を取っては眺めて戻しを繰り返していると、新着商品と書いてある品物に目が止まった。
・・・パンダ、かぁ。
紡、パンダ柄とか好きだったよな。
ー 贈り物ですか? ー
突然ショップ店員が声を掛けてきて、思わず大声ではい!と返事をしてしまう。
・・・やべぇ、声がデカ過ぎた。
クスクスと笑う店員を横目に、ぎこちない動きでカップを手に取ってみる。
ー こちらのマグカップは、今朝入荷したばかりなんですよ?いまお持ちのカップと、もうひとつ青いのがペアになってるんです ー
「そう、なんすか?」
ペアだと聞かされ、何となく手の中のカップに視線を移す。
ひとつあれば・・・いいよな?
例え色違いだからと言っても、2つあった所でどうしようもねぇだろ。
ー もしかして・・・彼女さんに?とかですか? ー
「あ、いえ・・・」
彼女・・・ではないんだよな。
ちゃんとした呼び名で考えるなら、元彼女・・・になる。
ー 照れなくてもいいんですよ?時々いらっしゃいますから。彼女に内緒でプレゼントを・・・っていうお客様が ー
照れてんじゃねぇし!
そもそも彼女だったら、今頃一緒に来てるってんだよ!
ー このカップのデザイン、ひとつずつに大きなハートが描かれているんですけど、見てて下さい? ー
そう言って店員が俺の手からカップを受け取り、隣同士に並べる。