第26章 交差する想い
『寂しいとか、そういう事を思うのは私だけなのかと思ってた』
慧「アホかお前。うちは両親共医者で留守がちで、紡が産まれるまではオレと桜太は何かと留守番が多かったから、子供の頃は寂しかったんだよ。いっときお手伝いさんがいた事もあったけど、でもそれは血縁関係のある家族じゃない」
子供の頃の寂しい気持ち。
それは私にもよく分かる。
慧「だから紡が産まれてからは、オレ達はそんな寂しいとか思わせたくなくて、いつも一緒にいたんだよ」
『・・・そうだったんだ』
慧「あ、そうそう。取っておきの話を教えてやろうか?」
『取っておきの話?』
軽く振り返り慧太にぃを見上げると、ニヤリと笑って私を見ていた。
慧「紡が去年修学旅行に行ってる間の事だけどよ、桜太の寂しそうな姿が忘れられないっつうの」
『桜太にぃが?どういうこと?出発の日には、いつもと同じように送り出してくれたけど?』
私がそういうと、慧太にぃは鼻で笑いながら、それはお前の前だけの姿だよと言って笑った。
慧「桜太はな、保護者用の修学旅行のしおりをコピーして持ち歩いてたんだ。で、暇さえあれば眺めて、いま紡はここにいるのかとか、向こうの天気はどうなんだろうとか、ブツブツ言ってたよ」
『桜太にぃのそれは、心配だったからとかじゃなくて?』
慧「ま、それもあるだろうけどな。でも、夕飯まで紡の分までうっかり作ったり、そんな面白いことばっかやってたぜ?弁当まで作るしよ。あれは紡の事で頭がいっぱいになってたからこその、桜太のミスだ」
『そうなの?そんな事、桜太にぃは全然言わなかったのに』
修学旅行から帰ると、桜太にぃが途中まで・・・と言うか、ほぼ学校の近くまで迎えに来ていて驚いた事を思い出した。
姿を見つけて駆け寄ると、お帰り紡って言って抱きしめられたのを国見ちゃんにしっかり目撃されていて、暫くのあいだからかわれたことも一緒に思い出す。
お子様過ぎてお迎えか?とか。
あれ?
なんかいま思い出すと、凄い恥ずかしい・・・
慧「紡にも思い当たる事があるみたいだな?」
『まぁ、ちょっと・・・ね』
そう返しながら、慧太にぃにその事を話してみると、予想通りゲラゲラと笑いだし車椅子を止めた。
慧「あの時なぁ!そうそう!保護者宛に流れる一斉メールで、大体の学校到着予定時間が流れてきたんだよ」
