第26章 交差する想い
だから、小走りで追いかけた。
岩ちゃんの姿を見つけて、声をかけようとしたら、立ち止まって月とか見上げちゃってるから・・・
ワッ!!って驚かせて、なに似合わない事しちゃってんのさ?なんて、軽く声をかけるつもりで歩み寄ろうとしたら、電話をかけはじめて。
相手が飛雄だと分かった瞬間、物陰に隠れちゃったんだよね。
驚かされたのは、オレだったよ!
そして・・・聞いてしまった。
ー アイツは・・・強いよ。こういう結果にしたのは俺なのに、文句ひとつも言わず、責め立てもしない。でも・・・もし、何かあったら。助けてやってくれ・・・頼む ー
なんでそんな事を飛雄に?
同じ学校だから?
烏野バレー部の手伝いをしているから?
岩ちゃんは知らないかもだけど!
飛雄だって、中学の時、紡ちゃんの事を好きだったんだよ?!
・・・ハッキリ確認した訳じゃないけど、多分そう。
そして、オレの勘が外れてなければ・・・
飛雄はまだ、紡ちゃんの事が・・・好きだ。
それに。
岩ちゃんだって、きっと。
本当はまだ・・・紡ちゃんの事、好きだ。
じゃあどうして別れたりした?!
なんで?!
何の為にそうなった?!
大事だと思うからこそ別れたとか、そんなの岩ちゃんらしくないじゃん!!
らしく・・・ない?
昨日・・・岩ちゃんが呟いたのは、これか?
ー 俺らしいって、なんだ? ー
そう言ってたよね?
あの時の岩ちゃんは、自問自答でイライラしてたのか?
・・・そっか、なるほどね。
岩ちゃん?
自分から手放したものを、また手に入れようとするのは難しいんだよ?
手放した理由が、どんな理由であってもさ。
人の心って1度離れてしまったら、元に戻るのは安易な事じゃ戻れない。
それに紡ちゃんの事は、オレにだって降り注いで来たチャンスなんだ。
だからもう、譲ったりしない。
過去の煮え湯を、何度も飲む気はないよ。
岩ちゃんゴメン。
オレは攻めるって、決めたから。
そこは貫き通させて貰う。
その代わり、バレーでは最高のトスを上げ続けるからさ。
そう思いながら、何巡目かの岩ちゃんへのトスを上げながら、笑顔を向けた。
「岩ちゃん!最高のスパイク、頼むよ?」
コートに響くスパイクの音を聞きながら、オレは更に笑顔を向けた。