第16章 初めの1歩
影山がグラスを置いたのを確認して、飲み物を注ぎ、また話し出した。
『その練習は引退がかかった最後の試合前日まで続いて、ひとつでも多く、少しでも長くコートに居たいって思うようになりました。でも、最後の試合でセッター潰しにあって・・・』
菅「セッター潰し?」
『相手チームから執拗に狙われて、スパイカーの打ち込んでくるボールが大半が私に向けてだったんです。元々リベロだったから、拾えない事は無い。でも、セッターの私がボールを最初に触ってしまったら、ね?』
同じポジションの菅原先輩に振ると、黙って頷く。
『それで、負けました。でも、部活引退したら、あの人と一緒にいる時間が増えるとか、そんな思いで気持ちを切り替えて負けた悔しさを乗り越えようとしたりして、夏の終わりを、新学期を待ち侘びていたんです。あの人は高校生で部活は合宿もあったし、結局お互い時間が取れなくて・・・』
話の確信に近づくにつれ、暴れ出している心臓の音とは逆に、指先から体温が奪われていく。
私は膝の上で、次第に凍り付いていく手を握り直した。
澤「その人って、まだバレーやってるの?」
澤村先輩に聞かれ、曖昧な笑みだけで返した。
ここで、はい、そうですと答えたとしたら、その次にどこの学校?とか、誰?とか聞かれてしまいそうで・・・
もし、知り合いだったら、それはそれで嫌だ。
『それから新学期になり、時間が出来たから会おうって呼ばれて・・・私は久し振りにちゃんと会えるのが凄く嬉しくて、駆け出して行ったんです。そしてそこで・・・・・・別れる事になったんです』
うまく、呼吸が出来ない・・・
視界が滲み、狭まる・・・
鍵をかけた記憶の引き出しから、あの日聞いた言葉が溢れ出してきた。
微笑みながらくれた、たくさんの“ ありがとう ”
そっと目を伏せながら言った、たくさんの“ ゴメン ”
菅「な・・・んで・・・?どうしてそんな?!」
澤「スガ!」
菅「だって大地!理由もなしにそんなの酷い、」
大きな声で、身を乗り出しながら言う菅原先輩を、澤村先輩はシャツを掴んで座らせ、何も言わずに首を振った。
気がつけば、いくつもの涙がこぼれ落ちていた。
『理由、は・・・ちゃんと、あり、ましたよ・・・?』
袖口で涙を拭い、話を続けた。
澤「城戸さん・・・もう、無理には、」