第16章 初めの1歩
リビングの前まで来て、ドアの前で深呼吸をした。
桜太にぃの言うように、ちゃんと向き合おう。
先輩達の話を聞いてから、それから考えればいい。
カチャリ・・・と静かな音をさせながらドアを開けた。
『お待たせしました・・・』
私の声に、澤村先輩達が振り返る。
慧「おっせ~よ、紡。待ちくたびれんだろ」
慧太にぃがニヤリと笑う。
『別に慧太にぃには用事はありませんから、好きなだけ待機でも何でもして下さい。はい。あっち行って!』
そう言い放ち、話を聞くために慧太にぃをテーブルから追い出し、代わりに私がそこへ座る。
目の前に座る澤村先輩と目が合うと、穏やかな微笑みをくれた。
澤「急に押し掛けてしまって、ゴメンね」
菅「ホントごめん!連絡は入れたんだけど、繋がらなくて。それで影山に頼んだんだよ」
チラリと影山を見ると、黙って頷いていた。
『それは別に構わないです。いつでも遊びに来てください。・・・それで、あの、今日は・・・?』
焦らしても時間は限られてる事だし、私は自分から話を聞く姿勢を見せた。
澤「あぁ、あの、それなんだけどさ・・・」
私本人を目の前にすると、なかなか言い出しにくいのか、澤村先輩が少し躊躇する。
桜「澤村君、さっき紡には軽く説明しているから」
桜太にぃもそれに気がついたのか、さり気なくフォローを入れてくれ、澤村先輩は少し安心した様子を見せて、話し出した。
澤「まず、記録ノートありがとう。いろいろデータが取れて助かるよ。凄くわかりやすくて、俺もスガもビックリしたし、それから清水も感心してた」
『そう、ですか・・・走り書きみたいで申し訳ないなって思っていたので、お礼を言われると、なんかくすぐったいです』
ニコリとして、素直な気持ちを伝えた。
『それから、菅原先輩も。電話に出れなくてごめんなさい。その、ちょっと・・・野暮用、というか、なんていうか・・・』
菅「大丈夫、気にしないで」
『ほんと、ごめんなさい。手元に持ってなくて』
念のため、もう1度謝る。
慧「野暮用ねぇ・・・」
近くのソファーから、慧太にぃが呟いた。
桜「慧太」
慧「へぃへぃ」
桜太にぃはキッチンから声を掛けるも、慧太にぃは軽くあしらい足を組み替えるだけだった。
はぁ~・・・と、わざとらしくため息をつき、テーブルに伏せる。