第16章 初めの1歩
クスクスと笑いながら、桜太にぃは私の頭に自分の顔を乗せた。
桜「昔も今も、紡は小さな小さな、俺の妹だよ・・・」
『もう、小さくなんかないもん』
モゴモゴと言い返す私が面白いのか、桜太にぃはまたクスクスと笑う。
桜「小さいよ?ほら、こんなに」
そう言いながら桜太にぃは手足を縮こませて、私を閉じ込めた。
『もぅ、桜太にぃ狭いよ~』
腕の中でモゾモゾと抵抗すると、スッと腕を緩ませてくれる。
その開放感に小さく深呼吸をして、そのまま寄りかかった。
桜「出たな、妖怪甘えん坊」
そう言いながらも、そのまま甘えさせてくれる。
桜「紡がバレーを離れたくなった本当の理由を、俺は知らない。だからと言って、無理に聞いたりもしない。」
桜太にぃの声を聞きながら、あの日の事を思い出し、微かに震える。
それが伝わってしまったのか、桜太にぃがもう1度、そっと包み込む。
桜「でもね、紡。いつまでも立ち止まっているのはダメだ。立ち上がるにも、前に進むにも、初めの1歩は誰だって勇気がいることだと思う。」
『桜太にぃ・・・』
桜「だけど、その初めの1歩を踏み出さないと、周りはどんどん進んで行って離れてしまうよ。前に進む事を怖がって、自分から距離を作ってはダメなんだ。分かる?」
『・・・・・・うん・・・』
桜「今回の事も、俺はマネージャーをやりなさい、とも、やっちゃダメだ、とも言わない。全ては紡自身が決めて行動する事だから。それに、マネージャー以外にも、選択肢はあるかもしれないしね」
それは、選手として・・・と言いたいのだろうか。
それはきっと、絶対に、ないよ・・・
桜「それから、もし、紡がマネージャーになったら、彼らは快く迎え入れてくれるだろうし、断ったからって一切関係を断つなんて事はないと思うよ。それは俺が彼らと話していて感じた事だけどね」
それは、私も同感出来る所はある。
あぁ、もぅ・・・ほんとに・・・
『桜太にぃには、敵わないなぁ・・・』
背中に体重をかけ、笑いながらグッと桜太にぃに寄り掛かる。
すると、私を受け止めながら桜太にぃも笑う。
桜「まぁね、紡のお兄ちゃんを何年やってると思ってんのかな?」
『むぅ~・・・』
桜「紡?俺は紡がどういう選択肢を選んでも、紡の味方だからね」
『多分、慧太にぃもそう言うよ?』