第39章 聳え立つ壁
『勝った・・・』
審判のホイッスルが鳴り響くのを聞き、ホッとしながらも手を握りしめている自分に気づく。
鉄壁と言われる伊達工の壁を壊し、最後まで諦めなかった東峰先輩もきっと過去を振り切る事が出来たのだと実感もして、記録を付けていたノートを閉じた。
嶋「お、来た来た」
嶋田さんに促され下を見れば、みんなが応援席の下に列を作りこっちを見上げて歓談していた。
試合が始まる前は強ばっていた表情もいまはひと時の安堵の表情に変わり、それぞれが柔らかな顔になっていた。
とは言っても影山と月島君以外は、だけど。
なんでいつもそうなんだろ?
ひとつ前に進めたんだから、素直に喜べばいいのに。
あの影山と月島君が・・・素直に喜ぶ?
未だかつて見たこともない様子を、ふと思い浮かべてみる。
影「月島、あの時のスパイクは良かった」
月「いやいや、影山のドンピシャなトスのお陰で僕達は自由にスパイクが打てるんだよ。ありがとう」
影「いや、俺はただ俺に出来る事をしただけだ・・・次もよろしく頼む」
月「こちらこそ、これからもよろしく」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
なに?!
なに今の変な感じ!!
ないっ!
絶対ありえない光景!!
しかもバックに花までキラキラしてたよ?!
うわぁ・・・怖い怖い怖い怖い!
なんか急に寒気までしたきた気がするよ・・・
ブルっとした体を抱きしめながら頭を振れば、応援席に挨拶を終えたメンバーがそれぞれ荷物を持って会場から出るところだった。
嶋「紡ちゃん、アイツらのとこ行かなくていいのか?」
ポンっと肩に置かれた嶋田さんの手に振り返れば、嶋田さんは早く行ってやれ?と目を細める。
嶋「今の試合のMVPに、紡ちゃんらしい最大な褒め言葉を送ってあげるといいよ。きっと喜ぶぞ」
『私らしいって?』
嶋「そ!あるだろ?紡ちゃんらしいやつ。ギューってハグってからの・・・キスとか」
パチン!とわざとらしいウインクを見せる嶋田さんは、なんなら応援頑張ったオレが最初のひとりでもいいんだけど?と両手を広げてスタンバイを見せた。
『なっ、ないない!そんな恥ずかしいことしませんから!どんな想像力をお持ちなんですか嶋田さんは!』
軽い後退りをしながらブンブンと頭を振りながら、とにかく行ってきますと駆け出した。