第39章 聳え立つ壁
~ 菅原side ~
第1セットの終わりを告げるホイッスルが響き、次のセットに備えての戦略をコーチが告げる。
それは1セット目とはローテーションを少しずらして回して、日向があの伊達工の7番と直接当たる回数を減らす目的だとコーチは言った。
ただ、日向にマークしなくなった分は当然他のメンバーにマークが強くなる可能性もある。
そうなると1番に考えられるのは、エースである旭にマークが強く付くだろう。
過去の伊達工の対戦を思い出して、胸の奥が苦く重くなる。
旭「日向に頼ってばかりはいられないです。日向がいるからこそ俺達も生きる。ちゃんとエースらしい働きをしてみせます」
旭・・・
そっか、そうだよな。
旭は変わったんだ。
いまの旭はもう、あの時の旭のままじゃない。
だからこそ、この伊達工戦に勝って上を目指したい。
3年生のオレ達は負けたら終わり、次はないんだ。
ひとつでも多く試合をしたい。
オレも、その試合の中でコートに立ちたい。
1年のときからずっと一緒に頑張って来た、大地や旭がいるコートに。
縁「それにしても伊達工の応援凄いですよね。ちょっと気を抜いたら雰囲気に飲まれそうな感じというか」
隣にいる縁下が伊達工サイドの応援席を見上げて肩を竦める。
「だな。確かに伊達工の応援席は人数もいるし、凄いとは思う。けど、烏野だって負けてはないと思うよ。ほら見て?あそこには小さな勇者がオレ達を見守ってくれてるから」
烏野サイドの応援席を振り返れば、それを見た縁下も同じように振り返る。
縁「なるほど、確かに強力なバックがいますね。けど、勝利の女神じゃなくて、勇者なんですか、」
「そ。勝利の女神ってより、紡ちゃんは勇者って感じじゃね?」
ほら、ここに来た時に旭がロックオンされた時のとか!と言えば、縁下は小さく笑いながらも大きく頷いた。
縁「彼女がいなかったら、もしかしたらまだ烏野は燻ったままだったかも知れませんね。俺や木下、それから成田が途中脱落した時も彼女がいたら、もっと早く立ち直れたかもとか思っちゃったりしますから」
「それは・・・オレもだよ」
旭や西谷が練習に来なくなって、と言っても西谷の場合は特例でもあるけど。
それでもオレは西谷のように旭に声を掛け続ける事が出来なかった。
練習来いよ、たったそれだけなのに言えなかった。
