第39章 聳え立つ壁
東峰先輩の手を取って、私のカバンから出したブラシも一緒に大きな手のひらに乗せる。
『いつものまとめ髪にするなら、手櫛じゃ大変だと思うので使って下さい』
旭「えっと、何から何までありがとう・・・助かるよ」
どういたしましてと笑い返し、自分も簡単に髪を後ろでひとつに纏めた。
東峰先輩も手馴れた感じで髪を纏めあげ終わり、受け取ったブラシを自分のカバンに押し込んで一緒に歩き出した。
旭「城戸さんがいてくれて良かったよ。ホントにありがとう」
『お役に立てて良かったです。私はこれくらいの事しか出来ないけど、それでもみんなが試合に集中出来ることなら大いに働きます。それこそ、水汲みでも雑巾掛けでも、なんでも』
旭「それじゃマネージャーってより小間使いみたいじゃないか」
『小間使い・・・じゃあ、アレです。烏野のシンデレラとでも呼んでくれてもいいですよ?』
旭「城戸さんは小柄だから、シンデレラってよりおやゆび姫の方が近いんじゃない?」
『東峰先輩まで小さいとか言う・・・みんなが大きいだけなのに』
と、東峰先輩を軽く見上げながら階段を降り切ったところで・・・
「っと、危ね・・・」
旭「ほら、ちゃんと前見ないと」
『わわっ、すみません』
階段前を横切る誰かとぶつかりそうになるのを東峰先輩に肩を引かれて足を止め、咄嗟に謝ると。
旭「伊達工・・・」
小さく呟く東峰先輩の声に前を向き直すと、今まさにこれから戦う相手がやれやれとした顔で私を見ていた。
二「なんだ、誰かと思ったらさっきの元気なおチビちゃんじゃん?あと・・・烏野のエース、だっけ?」
『おチビちゃん・・・て』
二「だってオレ、おチビちゃんの名前教えて貰ってないし?だから、おチビちゃん」
名前を知らないからそう呼ぶとかないでしょ!
なんて言い返したいけど、それだとこの流れでは、じゃあ名前を教えろと返されるのは分かりきった事でもあって敢えてなにも言わずにいた。
『私がよそ見をしていてぶつかりそうになったのは謝ります、ごめんなさい。試合する前にお互いケガしなくて良かったです。じゃあ・・・失礼します』
大事な試合前に東峰先輩を気疲れさせたくなくて、サラッと会話を終えたつもりで、行きましょうと東峰先輩の腕を引いた。
だけどそれは私だけが会話を終えたつもりなだけで、直後、呼び止められてしまった。
