第39章 聳え立つ壁
~ 東峰side ~
コートに入る前に伊達工の2人と遭遇して、思わず体を固くしてしまう。
城戸さんがぶつかりそうになってしまった事を、俺も先輩として謝らなければと思うのに、急激に乾いていく口が簡単にはそうさせてはくれずに黙り込んでしまう。
『私がよそ見をしていてぶつかりそうになったのは謝ります、ごめんなさい。試合する前にお互いケガしなくて良かったです。じゃあ・・・失礼します』
城戸さんがそう言って、行きましょうと俺の腕を掴んで歩き出そうとした時、伊達工の1人に呼び止められる。
二「ちょっと待った。どうせなら名前くらい教えてくんね?アンタもいつまでもおチビちゃんって呼ばれるのイヤだろ?」
その声に、城戸さんはピタリと足を止めて振り返る。
『別にいいです。今後どこかで会う約束をしてる訳じゃないし、私は選手でもないから名前なんて覚えて貰わなくても構いません』
城戸さん・・・ハート強いなぁ・・・
二「へぇ・・・なかなか手強いね、おチビちゃん。じゃあさ、この後の試合でウチが勝ったら名前と連絡先を教えてよ?」
名前の他に連絡先まで増えた?!
それはさすがに俺も黙ってる訳には行かないだろ?!
でもなんて言えばいいんだ?
こういう時、大地ならなんて言うだろうか。
城戸さんと仲のいいスガなら?
いや、迷い考えてる場合じゃない。
ここは俺が3年生として、しっかりしないとだ。
「教える必要はないよ」
よし言えた・・・まずは最初のひと言を言えたぞ!
心の中で小さくガッツポーズをするのを悟られないように、城戸さんの前に立ちその姿を背中に隠す。
『そうですね・・・伊達工が勝ったらっていう条件なら、教える必要はないって事ですよね?だって私たち烏野は、勝つんですから』
「えっ?!あ、あぁ、うん・・・そうだね・・・勝つんだから」
背中に隠したはずの城戸さんがひょっこりと顔を出し、笑顔さえ浮かべながら言い放つ姿に、なぜだかちょっと俺が怯んでしまう。
いや、怯んでる場合じゃない。
「行こう・・・みんなが待ってる」
『ですね!じゃ、今度はホントに失礼しまーす!』
こんな小さな女の子のひと声に腰が引けるようじゃ、まだまだガラスハートは卒業出来ないかもな・・・と、ひとり苦笑を浮かべながら、城戸さんの隣を歩き出した。