第32章 不協和音
~ 影山side ~
『っていうかさ、前にもこんな風に影山の背中に顔ごと突っ込んだ事、あったよね?』
あぁ、覚えてる。
それからずっと、城戸は隣を歩いてんだからな。
なのに、女バレ行くとかなんの相談もなしに結論出して!
いや、相談はしたみてぇだけど!
···くそっ。
ネット越しのあの青城セッターが浮かんでイライラしてくる。
なんで···あんなヤツに!
しかもどこでだ!!
『とりあえずさ、頑張るから私。影山みたいに上手いトス回しは出来ないかもだけど、頑張る』
ね?とニコニコ顔を向けて来やがって···人の気も知らねぇクセに。
このニコニコ顔に、オレがどんだけ···騙されてやってたか。
ま···仕方ねぇ。
こいつがどんな時でも一生懸命なのは知ってるし。
笑ってる時も、泣いてる時も、近くに···居てぇし。
「おい。助っ人のクセに足引っ張って来るんじゃねぇぞ」
『···精進します』
オレに出来ることは、どんな時でも···近くにいてやれる事だけだし。
「行くぞ。練習遅れる···あ、いや、その前に」
『その前に?』
数メートル先の自販機に小銭を放り込み、飲み物を2つ買う。
「やる。行く前に飲んどけ」
買った物のひとつを放りなげて渡せば、あたふたしながらも城戸は受け取って手の中を見た。
『ぐんぐんグルト···』
「嫌ならコッチ飲むか?」
フン、と鼻を鳴らしてもうひとつを見せれば、急に大人しくなって首を振った。
『牛乳は、遠慮させていただきます』
「だろ。飲めねぇもんな···桜太さんのミルクティー以外は」
『うるさいよ王様』
「王様言うな!」
これが今の、オレの立ち位置。
いまは、これでもいい。
『冷たくて美味しい~!』
···。
「やっぱそっちも飲ませろ」
手首ごと掴んで引き寄せストローに口をつけて飲めば城戸は笑いだした。
『そうやって飲んでたら、影山みたいに背高のっぽになれるのかもね?』
「うっせーな、チビが」
『チビって言った!あ、そう言えば今朝はブスとかも言ってた!』
「黙れ、本当の事を言ったまでだ」
酷い!!と拗ねる城戸と歩きながら体育館へと向かう。
そんなちょっとの時間が、ずっと続けばいいのに。
とか思った事を、いつか話せる日が来るんだろうかと、胸の奥で笑った。