第32章 不協和音
いざ決めてしまえば1日の授業はあっという間に終わってしまい、いよいよ放課後になってしまう。
『よしっ!やれるだけの事は頑張ろ!』
自分自身に気合いを入れる為に小さく叫び、手荷物を纏めていると目の前に大きな人影がヌラリと現れる。
影「おい···部活行く前に、ちょっと顔貸せ」
···影山?
『顔貸せ···とか、怖いんだけど。まるでカツア、』
影「あぁ?!」
『···なんでもないで~す』
見るからに不機嫌な影山にちょっとだけビビりながらも後を着いて歩く。
顔貸せとか言いながらも歩いていく方向は体育館への道のりで、結局いつもの感じで部活に行くんじゃん?と思いながらも、何となく黙って歩いた···けど。
『あたっ!』
前を歩く影山が足を止めたことで、その背中にバフッと突っ込んでしまう。
『急に止まったら危ないでしょう!』
影「お前···戻って来るよな?」
鼻を押さえながら抗議すれば、影山は前を向いたままでそう呟いた。
『戻る、って?』
影「···だから!そっちの用事が終わったら、ちゃんとマネージャーとしてこっちに戻るんだろうな!って」
『戻るけど?』
影「は?」
『え?』
···バッと振り返る影山と、その勢いにビックリした私の視線とがぶつかり合う。
『戻るもなにも、私···ホントに単なる一時的な助っ人ですけど?』
影「なら···ならいい」
一瞬だけ見せた素の影山の表情を思い返し、フッと笑いを漏らした。
『ふ~ん?もしかして王様は···寂しがりでしたか···ほほぅ、なるほどなるほど?』
影「ばっ···違う!断じて違う!別にお前がいようがいなかろうがオレには関係ねぇし!」
動揺しまくりじゃないですか。
『心配しなくて大丈夫だよ王様?女バレに行ってる間も、出来る範囲でマネージャー業務はするから』
パシンっと背中を叩けば、影山の眉間に深いシワが刻まれた。
『っていうかさ、前にもこんな風に影山の背中に顔ごと突っ込んだ事、あったよね?』
あれは確か、烏野に入りたてで···影山と同じクラスになって···
一緒にご飯お弁当を食べ始めたきっかけになった、あの日。
そこからだったんだよね···男子バレー部に関わることになったのは。
まだ、そんなに経ってないのに、凄く懐かしい記憶になった事を···ひとり、胸を暖かくした。