第32章 不協和音
~ 旭side ~
丁寧に頭を下げた城戸さんが、道宮さんと並んで歩いて行く。
恐らく···というより、確実に女バレが練習してる体育館へと向かっている。
昨日チラッと大地達から聞いた話。
あれが現実化したという事なんだろう。
それにしても、何となく違和感···あったよな?
いつもなら大地さんと呼んでいる城戸さんと、紡···と名前を呼ぶ大地。
それなのに彼女は、大地の事を澤村先輩···と呼んだ。
オレが感じた違和感は、きっとそれだ。
菅「澤村先輩、だってさ」
澤「あぁ···」
「いつもみたく、大地さん···じゃなかったな」
澤「···そうだな」
少しずつ小さくなっていく後ろ姿を見つめたまま動こうとしない大地に、スガはあからさまに息をついた。
菅「あのさ、大地。紡ちゃん···戻ってくるよな?」
澤「さぁな」
戻って来ない可能性もあるのか?
それは···嫌だなぁ。
あの誰に対しても物怖じしない、とびっきり元気な声が聞けなくなるとか···こっちが元気出ないだろ?
「大地。城戸さんは···女バレに入部するのか?昨日言ってた、お手伝いとかじゃなくて···」
澤「···旭、うるさい」
「うるさいって言われても、オレまだ、」
澤「黙れヒゲちょこ」
はい···黙っときます。
菅「旭に八つ当たりすんなよ。全く···旭、気にすんな?」
「あ、あぁ···まぁ···」
もし···もしも、だけど。
城戸さんがこっちに戻って来ないなんて事があったら。
オレはにこやかに···頑張れよ!って、送り出せるんだろうか。
オレの背中を押してくれたように、あの子の背中を···押してあげられるんだろうか。
まだ動こうとしない大地の姿に自分を重ね、なんとなく苦い思いが積もる。
ー 失恋でバレーを辞めました ー
いつか聞かせてくれた言葉が、頭の中を回る。
···克服、したのか?
菅「練習遅れるから、行くべ?」
澤「あぁ、そうだな」
菅「旭も!遅くなったら西谷にドヤされんぞ?」
···それはちょっと。
澤「ヒゲちょこ、行くぞ」
3人がバラバラに足を踏み出した。
前を歩く大地が、オレではなく···オレの後ろを見るように振り返った事に苦々しい気持ちが更に積もって行った。