第32章 不協和音
『矢巾さん、ホントにいいんですか?男の人って、こういうお店···苦手なんじゃ?』
今までだって岩泉先輩は1度も一緒に入ってはくれなかったのに。
まぁ···及川先輩みたいな例外はあるけど。
矢「オレ別に平気だけど?だって逆にこういう所ってさ、女の子が一緒じゃなきゃ入れねぇじゃん?」
『えっ?』
矢巾さんから出た予想外の言葉に、そういう考えもあるのかと唖然としてしまう。
矢「確かに女子が好きそうな甘々な雰囲気が全面に出てるけど、平気。それにさ、オレも結構···こういうの、かわいいって思えるけど?」
『あ···』
店先に吊るされたパンダのぬいぐるみキーホルダーを指先でつまんで見せる矢巾さんに、つい···岩泉先輩を重ねてしまう。
岩 ー 紡···お前ホンットにそういうの好きな ー
『かわいいじゃないですか、このパンダちゃん!白じゃなくてピンクですよ、ピンク!』
岩 ー いや、パンダは普通に白黒のしかいねぇだろ··· ー
『そこがまたかわいいんです!···ハジメ先輩も一緒にどうですか?』
岩 ー オレがそんなん付けて歩いてどうすんだっての! ー
『かわいいのになぁ、ピンクのパンダちゃん···』
あの時に私だけ買ったピンクのパンダちゃんは···今もまだ、私のリュックに着いてて。
何気なく、そこに手が伸びてしまう。
矢「あれ?もしかしてもうコレ持ってるの?」
『いえ、私のはピンクのパンダちゃんですから』
矢「ピンク?おぉ···ピンクもかわいいよな」
ちょっと屈んで私のリュックに着いてる物を見て、矢巾さんがウンウンと頷く。
『矢巾さんは···パンダちゃん、好きですか?』
矢「いいじゃん、パンダかわいくて。見て見て、こっちにはカラフルなうさぎちゃんってのもあるよ?」
そう言って私に見せるうさぎちゃんは、ホントにカラフルで···というか、カラフル過ぎて。
思わず吹き出してしまった。
『矢巾さんって、何だか···楽しい人ですね。せっかくだから今日はコレにしようかな?』
矢「ん?矢巾さんのセンスがキラリと光っちゃったって感じ?」
怪しげなポーズで言う矢巾さんが更に楽しくて。
クスクスと笑いながら、私は矢巾さんの手からカラフルなうさぎちゃんを2つ受け取り、雑貨屋さんの小さなカゴに入れた。