第32章 不協和音
『連絡は入れてあるので、そこまで心配はされないと思いますよ?居場所も、誰といるのかも分かってるし』
矢「いいのいいの、早めに出れば雑貨屋とかにちょっとくらい寄り道しても平気だし」
『雑貨屋?矢巾さん、何か買い物があるんですか?』
矢「オレじゃなくて。ほら、可愛いものとか買ったらテンション上がるんだろ?」
あ···そういう事か。
『だったら私、行きたいお店があるんです。多分そろそろ、新作とか出てないかぁ···なんて』
矢「よし、じゃ決まりな?行こう、オレも付き合うよ」
矢巾さんが先に腰を上げ、私もそれに従って荷物をまとめながら席を立つ。
先に行ってるから、ゆっくりでいいよと早々歩いて行く矢巾さんの手には伝票が握られていて、それを見て急いで財布を出しながらレジへと向かった。
『あの矢巾さん!お会計···』
矢「あ、もう終わったからすぐ行けるよ?」
『そうじゃなくて、私の分をちゃんと』
矢「いいよ、別に。今日はオレが無理やり誘ったようなもんだし?」
そうかも知れないけど、お金のことはちゃんとしとかないと···
複雑な表情を見せると、矢巾さんはお店のドアを開けながら私を見てチョイチョイっと小さく手招きをした。
矢「そんなに気になるならさ、今度お礼としてオレとデートしない?」
『デート···ですか?私ちゃんとしたデートみたいなのした事ないから面白くないかもですよ?』
それに、ご馳走になったお礼がデートって···それこそ誰かを彷彿とさせるような·?
矢「そんな難しく考えなくていいって。今日みたいにちょっとお茶したり、どっか買い物行ったり、公園散歩したり···とか、ま、そんな感じでいいからさ?」
『それなら···私にも出来そうですね。分かりました、お互い予定が合う時でしたらお付き合いします』
矢「やった!約束な?」
ちょっと大げさなくらいに喜ぶ矢巾さんを見て、私はその姿のおかしさに声を出して笑ってしまった。
矢「嬉しいんだから仕方ないだろ?そんなに笑うなって!それじゃ、つーちゃんのお気に入りのお店に行こうか!」
『つーちゃん?』
矢「そ、紡だから···つーちゃんね!ダメ?ちなみにオレの事は好きに呼んでくれて構わないから」
『あはは、矢巾さんて楽しい人ですね。いいですよ、その呼び方で構いません』
だって、ポチよりは、ね。
