第32章 不協和音
矢「何があったのかは知らないけど、気持ちがヘコんでる時はとにかく美味いもの食べればテンションも上がるだろ?」
『まぁ···そうですね。美味しい物を食べたり、可愛いものを買ってみたり、誰かに話を聞いて貰ったり。そういう事が気分転換になったりします』
そう返してグラスに口をつけ、考える。
矢「な?元気になる材料ってさ、意外といろいろあるんだよ」
元気になる材料···美味しい物を食べたり、可愛いものを買ったり、誰かと···話したり···
『矢巾さん、それが分かってるから私を誘ってくれたんですね?』
本来なら繋がりが殆どない私を、あの場でじゃあねと別れることも出来た。
なのに矢巾さんはそうはしないで、ちょっとだけ強引な感じではあったけど···私を誘ってくれた。
矢「例えばさ?何の関係もない人間に吐き出すのも、違う視点から意見やアドバイスが聞けると思わない?」
頬杖をついてニコニコとしながら私を見る矢巾さんは、何だか少しだけ及川先輩と雰囲気が被っていて。
いろいろ悩んでいた頃、たくさん相談に乗ってくれたりした事を思い出して。
『ちょっとだけ···聞いて貰っても、いいですか?』
そんな柔らかな雰囲気を見せてくれている矢巾さんに、話を聞いて貰いたくなった自分がいた。
矢「オッケー。オレでも役に立つことがあるなら、幾らでも聞いちゃう」
大げさなくらいのおかしなポーズで返す矢巾さんを見て、つい笑ってしまう。
『矢巾さんって、ホントそういう感じが及川先輩に似てます』
矢「え?あ、言っとくけどこれは、決してキミをナンパしてるとかじゃないからね?絶対!ホントに絶対!」
分かってます、と笑いながら言って、その場でなんとなく姿勢を正し、あの話を少しずつ話した。
もちろん、私がバレーから離れた理由までは矢巾さんが岩泉先輩と同じ学校のチームにいるから伏せたけど。
それでも疑問を持たずに私の話をずっと黙って聞いてくれた。
『···と、いう事なんです。それが何だか私は、悲しいというか、寂しい···というか···』
矢「なるほどね···まさかウチの女子部との練習試合が絡んでるとは思わなかったけどさ。でも、見方を変えて違う視点から考えればいいんじゃないかな?とオレは思うけど?」
『違う視点から、ですか?』
矢「そ、違う視点ね。例えばさ···」
