第32章 不協和音
「うちの親がさ、最近暑いからって···」
保冷剤の出どころを言えば言うほど、クスクスと笑い出す。
『矢巾さんのお母さん、優しいんですね』
「え~そう?ただの中年のおばちゃんだけど?って、ヤバ···こんなこと言ったのバレたら弁当抜きにされる···」
思わずポロッと出た言葉に、本気で笑い出される。
「やっぱさ、女の子は笑ってる方がいいよ?···か、かわいいし!」
『矢巾さんって、及川先輩みたいなこと言うんですね』
「及川さん?!···えぇ、オレあそこまで女子慣れしてないよ?」
こんな時、確かに及川さんだったら。
どうしたの?大丈夫?オレで良かったら話···聞くよ?···おいで?
···とか、キラッキラの爽やか笑顔でスマートに言うんだろうなぁ。
ってか、オレの及川さんへのイメージってどうなのよ。
でも、涙の理由は···気になるよな、な?
「あのさ、もしかして友達とケンカでもしちゃった?それかほら、あん時に呼びに来た背の高いメガネのミドルブロッカーに意地悪な事されたとか」
アイツ···意地悪そうだもんなぁ。
『いえ、そういうんじゃないです』
「じゃあ、どうして?···もし良かったら、オレで良ければ、話くらい聞けるよ?」
ん?あれ、オレ···まるで及川さ···いや!いや違う!
『大丈夫です。これは多分···私の気持ちの問題だから』
さり気なくオレ、断られた?!
『声、掛けてくれてありがとうございました。保冷剤も次にあった時にお返しします』
そう言ってスカートをぱふぱふと払い歩きだそうとする彼女の手を掴む。
『あの、矢巾さん?』
「待って?あのさ、もし···良かったら、なんだけど。軽くお茶しない?」
『はぃ?』
「いや、あの···ちょっと腹減ったし喉乾いたな、なんて。ひとりで食べても美味くないし、付き合ってくれたら···なぁ···?とか」
『あ···えっ、と?』
しどろもどろなオレの言葉に、ちょっと眉を寄せる顔を見せながら考え込まれた。
やっぱイキナリはダメだよなぁ。
しかもこんな、あんまり人に会いたくないだろう時にさ。
『家に、連絡だけしてもいいですか?いつもより遅いと心配されちゃうから』
「家に?!じゃあ···え?!ええっ?!」
『お茶くらいなら、ご一緒します。ぶつかってしまったお詫びに』
マジかぁー!!
