第32章 不協和音
澤「ちょっとだけ、いいかな?道宮が、聞いてほしい事があるって」
『どうして私なんですか?部の事だったら、別に清水先輩だって』
振り向きもせず言う私に、澤村先輩がため息をつくのが分かった。
澤「俺も一緒に話を聞くからさ?な、それならいいだろ?」
『いま忙しいんです、私。ドリンクだって作らなきゃだし、それに、』
澤「紡」
いつもと違う感じの声色に、体がピクリと震える。
道「澤村···忙しいんだったら、別に後でもいいから、さ?」
その道宮先輩の言葉に、後にして貰ってもまた同じ事の繰り返しになるのかと思うと、自分にうんざりして。
『···分かりました。練習が始まるまでの間なら』
そう、冷たく言い放っていた。
道「なんか、ごめんね···無理やり押しかけて」
澤「道宮、手短に···って言ってもムリだよな。とりあえずここじゃアレだし、外···出るか?」
澤村先輩を先頭に3人で体育館通路へと出ると、この辺りでいいかな?と足を止めて···澤村先輩が道宮先輩に話をするように促した。
道宮先輩が一生懸命に話をしてくれてる間、まともに顔を見ることさえしない私を見て、遂には道宮先輩がため息を吐いた。
道「やっぱり、急な話だし···」
『すみません。私にはお手伝い出来ることがありません』
澤「あのさ、紡」
澤村先輩が何かを言いかけた時、校舎の角から繋心が歩いて来て。
繋「あ?お前ら何やってんだ?練習始めんぞ」
澤「すみません、すぐ行きます」
道「ごめんね澤村、私も自分とこ戻る···ありがとう」
言葉数少なく、道宮先輩がサッと背中を向けて歩いて行く。
そんな後ろ姿を、澤村先輩はずっと見ていた。
繋「早く来い澤村!紡もな!」
澤「あ、はい!···行こうか、紡」
『···はい』
言いながら澤村先輩が私の背中に手を当てる。
きっといろいろ、私に言いたい事があるんだろうとは思う。
けど···
敢えて何も言わないでいる澤村先輩が、それはそれで···私にはモヤモヤする気持ちを残した。