第32章 不協和音
立ち聞きのつもりはなかったけど、会話の中で自分の名前が出てて体育館に入り辛い感じがして足を止めていた。
そんな時間も長くは続かず、西谷先輩に声を掛けられて体育館から菅原先輩が顔を出してしまう。
顔も目も見ないで横をすり抜けた私に、菅原先輩は何か言いたげだったけど。
いまは、誰とも話をしたくないっていう気持ちが上回ってしまって。
『やっぱり大地さんは···』
影「あ?なんか言ったか?」
『···なんでもないよ』
私をマネージャーに誘った事が、道宮先輩に後ろめたい事だって。
澤村先輩は確かにそう言った。
後ろめたいって、なに?
ここにはもう清水先輩がいるから、本当は用済みって事?
それとも、あの時たまたま···青城に行くのに人手が欲しかったから都合が良かったって事なの?
澤村先輩がそんな一時的な事で人を利用するような人じゃないと頭では分かっていても。
本当は女バレに勧めるべきだったと本人の口から聞いてしまうと、顔さえまともに見れなかった。
影「城戸。お前、朝からなんか変だぞ?」
『別に、普通だよ』
影「普通じゃねーだろ。なんか暗いし」
『大丈夫だから、ホント』
影「あのさ。お前が大丈夫って言う時は、大抵···大丈夫じゃない時なんだよ。自覚、ねぇみたいだけど···そういう時は、頼れよ」
ポツリと言って、そのまま影山はボールを持ってその場から立ち去ってしまった。
影山?
もしかして、怒ってる?
···思えば、影山はいつも困ってる時に一番近くにいてくれたかも知れない。
話す···べき?
それとも···
道「あっ!澤村~!」
どうしたらいいのか迷ってると、体育館の入口から道宮先輩が中を覗いてきた。
澤「道宮?どうした?」
道「あ、うん···ちょっと、さ?城戸さん借りてもいいかな?あの件でさ?」
あの件···
澤「まだ練習始まらないし、少しだったら構わないよ?···紡!ちょっと来てくれ!」
行きたく、ないよ。
だって、そこに行ったら···話を聞かなくちゃいけなくなるから。
ぎゅっと目を瞑り、聞こえない振りをしてやり過ごす。
何も聞こえない、誰もいない、そう考えてスクイズに入れるドリンクの準備をしようと手を動かす。
でも、そんな小さな抵抗は役には立たず。
背後でキュッと、シューズの音がした。