第32章 不協和音
~ 菅原side ~
「大地、道宮の事だけど···」
澤「道宮?あぁ、あの話か。顧問代行の話しなら、武田先生の返事待ちだぞ?」
それは知ってるけど···そうじゃなくて、さ。
「もしかして大地はさ、紡ちゃんに···とか、思ってる?」
何気なく言ったオレの言葉に、シューズの紐を結ぶ大地の手が止まる。
「もし大地がそう考えてるなら、オレは両手を上げて賛成!なんて出来ないよ。だって紡ちゃんは、」
澤「スガ···分かってるよ、俺だって」
「じゃあ···」
澤「だけど、俺は今も···道宮には悪い事したな、って後ろめたいんだ。本当ならあの時、女バレに勧める事も出来たのに、俺はそうしなかったから」
それは、オレも知ってる。
でもさ、大地···その時の事と今回の道宮の事とは別だろ?
「だからって、紡ちゃんをすんなり差し出すのはオレは反対だよ。大地だって忘れた訳じゃないだろ?···紡ちゃんがプレイヤーとしてのバレーを離れた理由」
澤「あぁ、忘れてなんかないよ。だから迷ってるん、」
西「あれ?そんなとこで何やってんだ影山と紡?体育館入んないのか?」
西谷···と、紡ちゃん?!
西谷の声に大地と2人でハッとして、オレは入口に足を向けて顔を出した。
「紡ちゃん···」
影山の後ろで壁に寄り掛かるようにして立つ紡ちゃんの姿に、いつからいたのか?と動揺する。
···もしかして今の話、聞かれた?
いや、聞いた···よな?
いつもなら元気にスガさん!って声を掛けてくれる紡ちゃんが、オレと目も合わせないで俯いたままだ。
「あ、あのさ紡ちゃん!今のはさ」
『スガさん、練習···始まりますよ』
一歩踏み出し声を掛ければ、紡ちゃんはそんなオレの横をすり抜けて影山と体育館の中へと入ってしまう。
西「スガさん、なんか紡のヤツ変じゃなかったッスか?あんま元気ないっつーか」
俯いたまま体育館へ入る紡ちゃんを見た西谷がオレにそう言う。
「そう、だね···」
他に言いようもなく、あやふやな返事をするオレを西谷が訝しげに見てるけど。
そんな事よりオレは、大地とも目を合わせずにいる紡ちゃんの事で···頭がいっぱいだった。