第32章 不協和音
武「僕もです。さっきも言った通り、この後は空きの時間なのでゆっくり食べましょうか」
お茶を入れてきますね?と言って、先生が静かにドアを開けて出て行った。
とりあえず、目の前の問題は片付いた。
あとは、道宮先輩の事が···残ってる。
もちろん、丁重にお断りするつもりだけど···
これが部内の紅白戦とか、せめて相手が青城の···とかじゃなかったら、と思うと心が揺れる。
バレー自体は嫌いじゃないから。
だけど···ね···
どうしても踏み切れない気持ちと、前を向くと決めた自分の決意がゆらゆらと動く。
武「何か、悩み事でもおありですか?」
『···いえ』
向かい合ってお弁当を食べる先生が箸を止めて私を見る。
武「あまり進んでいないようなので、ちょっと気になったので。もしも、僕が聞いてあげられる事であれば···」
先生に···?
でも、まだ道宮先輩から何も詳しく聞いてはいないのに···話してもいいんだろうか。
だけど、これまでも何回か武田先生に話を聞いて貰ってスッキリした事実もあるし。
『じゃあ···少しだけ、聞いて貰ってもいいですか?···私の独り言』
武「いいですよ?独り言なら、いくらでも聞きますから」
先生と同じように箸を置き、朝の出来事をなんとなく話す。
道宮先輩からの言葉も。
その時の澤村先輩の様子も。
西谷先輩が通りかかって、それに便乗して逃げるように立ち去ってしまった、自分の事も。
···全部。
武「そうですか···なるほど。実は今日、澤村君のクラスで授業がありまして、その時に呼び止められて少しだけ女子バレー部の事を聞いたんです。その日だけでもいいから顧問代理として引率をする事は出来ないか?って」
『大地さんから、ですか?』
私がそう返すと、先生は小さく頷いた。
武「本来ならば道宮さんが言うべきだろうけど、今はそれどころじゃないと思うし···とも言ってました。緊急事態の様なので、僕で構わないならお受けしますよとも。ただ···そうなると本来の部の方の責任者が不在になってしまうので、まだクリアしなければならない壁があるんですが、ね」
私の知らない所で、話が少しずつ進んでいる事にまたひとつ不安が生まれる。
顧問代行が決まったら、あとは···メンバーの問題になるということに。