第32章 不協和音
どう?って、言われても···
『私は、今はやりたい事があって···それで···』
桜「つまり、結論から行くと?」
『···短期留学なんてしなくても、勉強はどこでだって出来るし、私には必要ない···です』
桜太にぃに促されて言わされてるんじゃない。
これは私の気持ちと、私の意思。
いまはみんなとバレーで広い世界を見る為に、頑張りたい。
みんなと一緒に、走っていたい。
···一緒に走ろうって、言ってくれたから。
桜「···だ、そうだけど?」
和「バカなことを。学生は勉強をするのが務めだ、今しか出来ない経験を積むことが最優先だろう」
『でも!大事な事は勉強だけじゃないと思うんです!だから···短期留学はお断りします』
その場に私と和泉先生しかいないと思ってしまう程の、和泉先生の射抜くような目に負けじと私も瞬きを止める。
和「子供と話しても先が進まないようだ。やはり保護者を呼んでいて良かった···城戸?賢いお前なら、この子が今何を学ぶ事が最優先なのか···分かるよな?」
口端だけで薄く笑いながら、和泉先生が桜太にぃを舐めるように見る。
桜「そうだね。だけど、今の紡に大事な事は···俺達にも分からない事なのかも知れないよ?」
桜太にぃは穏やかな表情を崩さず、和泉先生を正面から見て···そう言った。
和「どういう意味なんだ、それは!」
武「い、和泉先生どうか落ち着いて···」
どれだけちゃんとした理由を述べても分かってくれない和泉先生に、武田先生までもが間に入ってくれる。
和「武田先生は黙ってて下さい!」
武「しかしですねぇ···」
武田先生の放つ、のんびりとしたオーラに和泉先生が更に苛立ってしまう。
それを見て桜太にぃがため息を吐き、和泉先生の目を自分に向けた。
桜「和泉は確か···英語科のエリート教師、だったよね?」
エリート教師?
そんなこと言ってたっけ??
和「だったらどうした」
桜「いや、別に深い意味はないよ。ただちょっと···オトナの深い話をしようかと、思ってね?英語は昔から、得意科目だろ?」
そう言った桜太にぃのオーラがガラリと変わる。
和「良いだろう。」
そのやり取りの後に2人が話し出した会話は、聞き取るにもついて行くのがやっとな速さの、滑らかでネイティヴな英会話だった。