第32章 不協和音
桜「そうだね···久し振り。和泉」
『えっと···?桜太にぃ、もしかして和泉先生とお知り合い···?』
軽く引きつった表情の和泉先生に笑いかける桜太にぃを見比べてしまう。
桜「高校の時の、同級生なんだよ」
えぇっ?!
桜太にぃと、和泉先生が同級生···
武「そうでしたかぁ!それならば和泉先生もお話がしやすいのでは?」
驚いて言葉が出ない私の隣で、妙にニコニコして和泉先生に話を進めるように促す武田先生を見て、首を傾げた。
桜「まさか和泉が英語科の教師をしてるとは思わなかったよ。だってあの頃は確か···」
和「う、うるさい···若いうちに経験を積もうと思ってだな!···フン、どうせお前もこの時間に自由が聞くなんて、普通の会社員···グヌヌ···医者とは···」
あからさまな態度を見せながら調査表を見る和泉先生が言葉に詰まった。
桜「今日はちょうど当直明けでね。いいタイミングと言えば、そうなるのかな?さて、時間は無限にある訳じゃない。無駄話はそれくらいにして···そろそろ本題に入ろうか、和泉」
和「無駄話だと?フン···お前はお互いの立ち位置が分かっていないようだな、城戸」
『あ、はい!』
和「お前じゃない!···全く紛らわしい···」
紛らわしいって言われても、私達は同じ名字なんだから仕方ないじゃん!
桜「立ち位置?それを理解しきれていないのは和泉、キミじゃないのか?今時、生徒や保護者に意味のない高圧的な姿勢でいると、あまり良くないんじゃないかな?それで、用件は?」
なんか···いつもの桜太にぃと雰囲気が違う?
まさかの慧太にぃ···そんな訳ないか。
どこからどう見ても、正真正銘···桜太にぃだし。
和「実は、だが。入試後の提出物である英論文やその他の評価を考慮して、夏休みを利用した短期留学の話を勧めてるのを聞いてはいるか?」
桜「···短期留学?」
あ、やば···その話、桜太にぃにはしてなかった。
和「聞いてないのか?毎年学校内から優秀な生徒を送り出しているが、今年の候補生の一人として名前が上がっている」
桜「へぇ···光栄な話だけど、本人が行きたくないのなら、俺はあくまでも本人の意思を考慮するけど···どう?」
そう言って桜太にぃが私の顔を見て、小さく笑った。