第31章 ステップアップへのチャンス
ー ピッ! ー
これでもう、何本目になるんだろう。
影山と日向君の、いわゆる···普通の速攻。
何度も飛んで、何度も止められて。
ネット際で、誰より1番近いところでの攻防戦を見続ける私は。
なかなか上手く行かない日向君のスパイクに胸が痛くなる。
こんなに頑張ってるのに、どうして上手く行かないんだろう。
そんな事を考えていると···過去に、自分がポジション変えされた時の事が頭を過ぎる。
及「ほらほら紡ちゃん!ボールに添える指先は、そうじゃなくて、こうだよ?」
『こ、こう···ですか?』
及「ん~そうそう、そして肘はあんまり力入れずに余裕持たせて?」
岩「おいクソ川!!テメェ紡にくっつき過ぎなんだよ!離れろボケッ!!殴るぞ!」
及「殴るぞって言いながら殴ってんじゃん!」
岩「うるせぇ!だいたいお前は普段から紡に、」
及「いいじゃん!岩ちゃんのケチんぼ!」
あの公園で、及川先輩と岩泉先輩に暗くなるまでずっと練習に付き合って貰っていた···あの頃。
家でもトスの練習は出来てたけど、桜太にぃも慧太にぃも基本ポジションはスパイカーだったし、現役のセッターである及川先輩から直接指導を受ける方がいいだろうと弟子入りしたんだよね。
及「あ~もぅ!岩ちゃんうるさいからちょっと休憩!そんでもって岩ちゃんジュース買ってきて!」
岩「俺のせいかよ!って、俺がパシリかよ!」
『あ!私が行きます!』
及「い~の、岩ちゃんが行くから!」
岩「紡はいつものでいいな?及川は泥水でも飲んどけ」
及「何で?!浄化されたのにして!」
飲み物を買いに行ってくれている岩泉先輩を待つ間、ベンチに及川先輩と座り汗を拭く。
『なんで···こんなに頑張ってるのに上手く行かないんだろう···』
込み上げてくる悔しさと、なかなか上手く出来ないもどかしさに愚痴が漏れた。
及「紡ちゃん?ひとつ及川さんがいい事を教えてあげる···頑張ってるかどうかっていうのは、自分が判断しちゃダメ。それは他人から見た評価だからね?」
『他人からの、評価···ですか?』
及「そう。それから、その言葉をたくさん言ってくれる人が増えた時、初めて上手く歯車が回るんだよ」
そう言って及川先輩は、笑った。
及「頑張ってるとか、一生懸命とか。そういうのは自分じゃ見えない努力の証だから」
