第31章 ステップアップへのチャンス
『及川先輩も···上手く行かなくて悩んだりとかいう時期があったんですか?』
及「オレ?オレは···天才だからね~」
『あ~···』
及「ちょっと紡ちゃん!そこツッコミ入れるトコ!」
『え??あ、えっと···な、なんでやねん?』
及「遅いって!」
よく分からない会話の流れにお互い向き合って笑った。
及「うん!やっぱり紡ちゃんは、そうやって笑ってる方がカワイイよ!って、カワイイのは元からだけど!もう可愛すぎるから及川さんがギュ~ってしちゃう!」
『あ、ちょっと及川先輩?!』
一瞬のウチに腕に抱きとめられジタバタともがいていると、及川先輩はそのまま小さく呟いた。
及「オレだって、どんなに努力しても···手に入らなかったものはあるんだけどね」
及川先輩がどんなに頑張っても手に入らなかったもの···
それがいったい、どんなものなのか分からなくて。
聞き返そうと顔を上げると、及川先輩の背後には鬼の形相をした岩泉先輩かいて。
岩「クソ川テメェ!俺をパシッたのはそういう事か!!」
及「痛ったぁ!岩ちゃん?!暴力反対!!」
岩「紡から離れろボケッ!!クソ川のアホが伝染ったらどうすんだ!!」
及「岩ちゃんのゴリラが伝染るよりマシでしょ!!」
岩「誰がゴリラだ!···紡!お前も笑うな!」
『ご、ごめんなさいっ!』
及「や~い、岩ちゃんのゴリラ~!いじめっ子~!」
岩「お前はまだ···俺のゲンコツが足りないようだな及川···」
···あれ?
なんか余計な事まで思い出しちゃった。
ヤバい···集中しなきゃいけないのに、顔が緩みそう。
ブンブンと小さく頭を振って、浮かぶ記憶を振り払う。
でも、ひとつ大事な事を思い出した。
頑張ってるって評価をしてくれる人が増えた時、歯車が回り出す。
あの時の及川先輩は、確かに私にそう言ってた。
だから私は、その中のひとりになりたい。
だって日向君、あんなに頑張ってるんだもん!
あと少し、きっとあと少しで上手く行くよ!
ひとり小さく手を握りしめながら、表に出す事のない声援を送る。
···来た、影山からのトス!
日「今度こそ!!」
そう叫ぶ日向君は、僅かにブロックを避けるようにスパイクを打った。
その軌道は?!
ジャッジを含め、私はボールの行く末に視線を変えた。
ー ピッ! ー
