第31章 ステップアップへのチャンス
~黒尾side ~
研磨の指示は、どんな時でも冷静的確だ。
それは研磨が昔から人見知りでありながら周りの目はそれなりに気にして来た性格ってのもあるんだが。
だからこそ、オレ達が気付かないような細かい変化や状況を誰よりも早く感じ取って先読みする。
今も、そう。
烏野のチビちゃんの行動範囲を観察して、オレ達がどう動けばいいか考えた結果、ブロックを寄せて犬岡を使った。
そして今、烏野陣が慌ててタイム要求、か。
集まって何か話しているチームと、こっちみたいにそのまんま行けばいいと休憩タイムになってるのと、それぞれだ。
少し気になってるのは、烏野の10番が笑いを見せたってトコだな。
アレだけしつこく犬岡に貼りつかれて、ブロックされて···悔しがるワケでもなく、笑った。
研磨はそれをどう見···ん?
チラリと研磨に目を向ければ···アララ。
向こうで副審やってるお嬢ちゃんを意識してんのか?
「研磨、なぁに遊んでんだ?今は試合中だろ」
ピンっと頭を指先で弾きながら言えば、研磨は目線だけをオレに向けた。
研「べつに、遊んでない。視線、感じたから見たら···紡がいただけだから」
いきなり名前呼びとか、どうなってんだ?
「ほ~ん?人見知りのお前が、いつの間にあのお嬢ちゃんと仲良しになったんだ?」
2人が名前呼び合うような接点、あったか?
研「···さぁね。クロには教えない」
夜「プッ···フラれてやんの。ってか、あのチビちゃん結構際どいライン沿いとかまでシッカリ見てるよなぁ。今まで副審やってた誰よりもキッチリ見てるのが近くにいてわかるよ。それにさ、何かちょっとした動きがリスみたいだよな」
オレらの軽いやり取りを見たやっくんが会話に混ざって来たと思えば。
「リス?」
研「うん···かわいい」
「へぇ~、研磨がかわいいとかねぇ?」
こりゃ、更に驚いたな。
研「···なに、クロ」
初対面の、しかも敵チームの女子マネにかわいいとか言い出す研磨は初めてだ。
いいねぇ、青春か?
それとも、いよいよ研磨にもお年頃ってヤツが到来?
無表情を貫こうとする研磨を見て、つい、ニヤける。
研「クロ、顔がしつこい···」
「顔がしつこいって何だよ!」
研「···うるさい」
それきり研磨はプイっと顔を背け、監督の方を向いてしまった。
