第31章 ステップアップへのチャンス
日向君の苦しいスパイクとブロックの攻防を見続けていた。
青城との練習試合で上手く回っていた影山とのコンビプレイが、音駒との練習試合でこんなにも早い段階で壁を作られるなんて···予想もしてなかった。
ベンチを見れば、繋心も武田先生も苦い顔をしていて。
その代わりに、音駒の監督はにこやかな顔で座っている。
まだ始まったばかりだと言うのに、音駒は攻略に出ているって事なの?
いろんな憶測だけがグルグルと頭を周り、思わず吐き出す息も重くなる。
ふと視線を感じて顔をあげれば、コートの中にいる東峰先輩が私を見ていた。
···えっと?
もしかして私、考え込み過ぎて変な顔とか···してたかな?
さり気なく眉間に指を運び、シワが寄ってないかとなぞる。
うん、大丈夫···多分。
それでもまだ、東峰先輩は視線を外す事はなく真剣な眼差しのままで。
無下に目をそらすのも変だし。
どうしてずっと、東峰先輩はこっちを?
今は日向君が···あ···もしかして。
何度もブロックに止められてスパイクが決まらない日向君の姿を見て、少し前の自分の悪い苦しい姿を思い出してるんじゃ···?
少しだけ聞いた話しでは、東峰先輩も執拗にブロックされてスパイクが決まらなくて···苦しくて、辛くて。
決まらないスパイクなら、自分にトスを上げるな!って思って、ボールを繋がれることを拒んだ。
そしてその結果、試合に負けてしまった事を自分のせいだと···
その事を思い出して苦しくなっているのだとしたら、不安に駆られて誰かの後押しが必要になってるのかも知れない。
ベンチにいたら、声をかけてあげたりとか出来るんだけど···
今の私は公平にいなければならない立場についているから、例え練習試合だからと言っても、声を掛ける事は出来ないし。
だったら、どうやって大丈夫だと伝えればいいんだろう?
言葉じゃくて、ちゃんと伝わる方法···あっ!
ひとつだけ、あった!
私は東峰先輩から視線を外さずに、そっと口に挟んだ笛を手に移す。
これなら、伝わるかも知れない。
言葉じゃなくても、これなら···
日向君は、きっと大丈夫です!だから、東峰先輩も頑張って下さい!
そんな気持ちを込めてゆっくりと瞬きをしながら、私は東峰先輩に笑いかけた。