第31章 ステップアップへのチャンス
~ 東峰side ~
日向の武器とも言える影山とのコンビ速攻が止められた。
それは偶然とか、たまたまとか、そんなんじゃなくて。
何度も執拗に追いかけられて。
···ブロックされた。
喉の奥から、苦味が込み上げてくる。
自分の過去を思い出し、息苦しくもなる。
何か声をかけてやらなきゃ。
でも、なんて?
苦し紛れに大地やスガを見れば、2人とも眉を寄せている。
もしかして、あの苦しい戦いの事を思い出しているんじゃないかと···息が止まる。
諦めて投げ捨てた、やるせない気持ち。
考えれば考えるほど、息が出来なくなる。
日向はオレに···いや、エースに憧れていると言っていたのに。
ダメなエースの見本で、ゴメン。
大事な時に声掛けられなくて、ゴメン。
自分の不甲斐なさに、思わず下を向いてしまう。
城戸さんだって···こんなエースじゃ···
そこまで思いかけて、ふと···顔を上げる。
ダメだ、ダメだ!
こんなマイナス思考なんてしてたら!
あの日、自分の苦しい思い出を打ち明けながらオレを背中を押してくれた小さな手。
勇気を分けてくれたその手を、裏切ることなんてしない。
そう、決めたじゃないか。
情けなくてもいい。
カッコ悪くてもいい。
小心者だと言われてもいい。
今はそれでもいいんだ。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
副審に立つ城戸さんを見て、気持ちを落ち着かせる。
オレ達の為に、どんな事でも一生懸命に頑張ってくれる。
もう一度、大きく息を吸い込み···吐き出す。
絶対に大丈夫だと言ってくれた事を思い出しながら城戸さんを見れば、念じた訳でもないのに···こっちを見た。
ほんの数秒、視線が合う。
だからと言って急に逸らすのも変だし。
かと言って見続けるのも変だし。
つい、そんな自分に眉を下げてしまう。
するとそれを見て城戸さんは、口に挟んでいた笛を取り外し···小さく笑ってくれた。