第29章 ネコと呼ばれる人達
武「烏養君が迷う理由は、もしかして菅原君が3年生だからというのがあるんでしょうか。3年生というのは、今年が最後な訳で···やはり特別な···あぁっ、すいません!余計な事を!」
やっぱり、みんなそう思っちゃうよね。
影山が来るまでは、当たり前のように菅原先輩がトスを上げて、東峰先輩がスパイクを打つ。
そこには澤村先輩や田中先輩、それに西谷先輩だっていて。
でも、今は···
繋「いや、その通りかも知らん。オレは高校3年間でスタメンだったのは、後輩の正セッターがケガで出られない時の1回だけ。あの頃は試合に出して貰えなかった事が、ただ···とにかく悔しかった。けど、仮にもコーチを引き受けた以上、選手側の気持ちでいるワケには、いかねぇよな···」
大きく息を吐いて、繋心が私を見る。
その目が、まだいろいろと悩みや迷いを浮かべているように思えて···私はただ、曖昧な笑みを返す事しか出来なかった。
『繋心はさ、なんだかんだ言ってもちゃんとコーチだよね』
繋「あぁ?どーいう意味だチビ助」
『別に深い意味はないけどさ?嶋田さんが言ってた通りだな、って思ったから』
合宿初日に嶋田さんに会った時に、さっきの繋心の話は既に聞いていた。
でも、帰りの車の中で嶋田さんが私に話してくれた事。
それは。
繋心の、バレーボールに対する···熱意。
嶋 ー 繋心はさ。あんな風に突っぱねてるけど、なんだかんだ面倒見はいいし、バレー馬鹿だし。見た目や言葉遣いもあんなだけど、それなりに責任感のあるヤツだ。だから、ちゃんとアイツらの指導はしてくれると思うよ ー
『そうなんですか?うちの兄達と話してる姿からは、あんまり想像つかないけど···』
嶋 ー そりゃ、ブラックツインズを前にしたら繋心だってビビるさ。強敵だからね、妹ちゃんの双子兄貴は 。それに、繋心からバレー取ったら何も残らないだろ?なんて、これは内緒ね ー
最後の方は上手く笑っておちゃらけてたけど、きっと嶋田さんが言っていたことは本当なんだと思う。
だって、こんなにも真剣な顔で考え事をする繋心は今までで初めて見たから。
それだけ一生懸命にみんなの事を考えてくれてるってことだから。
出入口から流れてくる風に髪を撫でられながら、いま走ってるメンバーの顔を思い浮かべて、心が温かくなった。
