第29章 ネコと呼ばれる人達
~山口side~
「ねぇツッキー。朝練の時さ?城戸さん、なんかいい匂いしなかった?」
お弁当を食べる為に手を洗いに行く途中、ツッキーに聞いてみる。
月「···さぁ?」
「なんかさ、隣に行った時にふわっといい匂いがしたんだよね」
いつもと違う感じの、なんか···優しい感じの。
「あ、でもね!テーピング巻いてもらう時は、また違う感じの匂いがしてさ?なんの匂いだったんだろう」
あの時は、オシャレっていうか、オトナっぽい感じの匂いがして。
「普段は、女の子っぽい匂いがしてたんだけど···」
ツッキーが何も言わないからって訳じゃないけど、オレだけがずっと喋り続ける。
まぁ、いつもの事だけどね。
月「山口」
「ん?」
月「ポチがどんな香りがしてようが僕には関係ないけど···山口、いつもそんなにポチの匂いをハスハス嗅いでんの?」
「えっ?!」
キーンと背筋が冷えるような目で、ツッキーがオレを見る。
月「山口···変態?」
「ちっ、違うよっ!!たまたま!そう!たまたま今日は城戸さんがいい匂いだったなって!」
そう!たまたまだよ!
『私が···どうかした?』
「だから、城戸さんが···うわぁっ!!」
掛けられた声に答えながら隣を見れば、まさかのご本人登場?!
『うわぁっ、て···その驚き方は?山口君、もしかして私の悪口とか話してたの?』
「違うよ!むしろ逆だよ!」
逆?と小首を傾げて、城戸さんが不思議そうな顔を見せる。
月「山口が、ポチの事をハスハス嗅、」
「わーっ!わーっ!わーっ!」
だ、だだダメだから!
ツッキーそれ言っちゃダメなやつ!
オレが変態だと思われちゃうからねっ!
思わず慌てて叫んで、ツッキーの言葉をかき消した。
月「山口、うるさい」
「ごめんツッキー!」
『山口君、いま耳がキーンって···』
「ご、ごめん!ホントごめん!」
苦い顔を見せる城戸さんに、とにかく平謝りをする。
『それで、なんの話をしてたの?』
まだ終わってなかった!
「あ~···合宿!合宿始まるねって!」
『合宿?でも、私の名前が出てた気がするけど?』
しまった!そうだった!
助けを求めようとツッキーを見ても、微かに笑ってフイッと目を逸らされた···
『もしかして私、合宿で泊まらない方が良かった?』