第29章 ネコと呼ばれる人達
あはは···忘れ物って、そっちの事ね。
『えっと、ね。やっぱり忘れ物、あったみたい』
言いながら手荷物を1度手放し、とりあえず靴だけを先に履く。
桜「忘れ物、大丈夫かな?」
何度も言う桜太にぃに、思わず笑ってしまいそうになり、堪える。
桜「紡?」
慧「桜太、邪魔。ほれ、来い紡」
桜「あ!慧太、俺が先に待ってたのに!」
拗ねる桜太にぃを残し、先に慧太にぃにギュッと抱き着く。
『行ってきます、慧太にぃ』
慧「おぅ、行ってこい。ケガすんじゃねーぞ?」
ポンッと頭に手を置かれ、体を離す。
『気をつけます···』
慧「ほらよ、桜太。ってかお前···ソワソワし過ぎだろ」
桜「うるさい、横入り慧太」
『あぁもう、ケンカしない!じゃ、桜太にぃ···行って来ます』
慧太にぃと同じように、桜太にぃにもギュッと抱き着く。
桜「行ってらっしゃい、紡。慧太も言ってたけど、ケガには絶対気を付けること。あと、ちゃんと食事は食べる事、それから、」
『桜太にぃ、私ホントに遅れちゃう···』
慧「長いんだよ、桜太は!」
ゲラゲラと笑い出す慧太にぃに、チラリと視線を動かしながら桜太にぃはやっと解放してくれる。
『じゃ、行って来ます!』
まだ何か言いたそうな桜太にぃに元気よく告げて、私は外へ出た。
他の人が見たら、おかしな光景かも知れない。
もう高校生にもなって···とか、言われるかも知れない。
だけど、小さい頃からずっとそうして来たから、それが当たり前の事だから。
お父さんもお母さんも留守がちで、いつもの側にいてくれたのはふたりだったし、それを考えれば城戸家の当たり前のルールみたいなもので。
···いつかは、ふたりにお嫁さんとか来て、兄卒業!とか、妹卒業!とかで、そのルールがなくなってしまうかも知れないけど。
その日までは、続けていても···いいよね?
微かに残る、兄達の香りに鼻を擽られながら影山との待ち合わせの曲がり角へ向かう。
···ちょっと、慧太にぃのはオトナな香りだけど。
でも、桜太にぃのは私が今より子供の頃に梓ちゃんと桜太にぃが、お揃いでつけてたほんのり優しい香り。
桜太にぃ、今でもまだ···時々つけてるんだね。
あの、優しい香りを···
そんな事を思いながら、影山の姿が見えて来た曲がり角に向かって駆け出した。