第29章 ネコと呼ばれる人達
~東峰side~
桜「君達が試合をする相手、つまり音駒高校だけど。とにかくレシーブが上手いんだ。スパイクを打っても打っても拾われてしまって、なかなか点が決まらない。体力も精神力もどんどん削られて行く」
城戸さんのお兄さんが、自分の過去の経験からの話をしてくれる。
打っても、打っても···スパイクが決まらない。
体力も精神力も削られる···ハハッ···相手を見る前に、早くも心が折れそうだよ。
スパイク打っても決まらない、そんな自分の苦しい過去が頭を過ぎる。
また、か。
また、オレのせいで勝てない···ホント、ごめん。
弱いオレで、ごめん···
あの時と同じ思いをさせてしまうのかと、何度も胸の奥でみんなに謝り続ける。
苦しさに、グッと拳を握り瞼を閉じる。
ー エースへ繋ぐ責任、最後をエースに托す覚悟。それは同じコートに立っているプレーヤー、ベンチに控えているメンバーがみんな同じ気持ちなんです ー
あぁ···そうだったな···
苦い胸の奥に、あの時の城戸さんの言葉が浮かぶ。
ー 嬉しさはみんなで増やして、悲しさや辛さはみんなに分散して・・・チーム、なんですから ー
···チーム。
また、救われちゃったな。
自嘲しながら、ゆっくりと目を開ければ。
心配そうにオレの顔を見る、城戸さんがいた。
すぐに視線を逸らされてしまったけど、きっと···さっきのお兄さんの話を聞いて気にかけてくれたんだろう。
だけど、立ち止まってばかりはいられない。
オレは···自分の足で前に進み始めたんだから。
始めるぞ!と言うコーチの声に全員がバラバラと動き出す。
『大地さん、西谷先輩。頑張って下さいね!』
頑張れ、か。
慧「紡、オレ達には応援なしかよ」
『だって、慧太にぃはほっといても頑張るんでしょ?』
慧「ビスケット···」
『が、頑張れ慧太にぃ!』
澤「そんなに好きなのか、そのビスケット」
『イチゴ、ですから!』
そんな会話を聞きながら、オレも移動し始める。
菅「旭···大丈夫か?」
隣を歩くスガが、気を使ってるのか声をかけてくる。
「大丈夫だ、オレも頑張るから」
そう言いながら、通り際に城戸さんの肩をひとつポンと叩いた。
『はい、東峰先輩も頑張って下さいね!』
あぁ、もちろんだ。
オレは言葉の代わりに、笑顔を向けた。
